劇場公開日 2024年8月30日

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「猫とコーヒーカップ」愛に乱暴 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5猫とコーヒーカップ

2024年9月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

相変わらずの江口のりこの熱演ぶりが印象的な映画でした。夫、姑、職場、近隣住民など、あらゆる人間関係にズレが生じた主人公・桃子が、孤独感、疎外感の余りどんどん狂って行くようでいて、よくよく考えれば現代社会に生きる誰しもが陥る可能性のあるシチュエーションを描いていただけに、非常に見ごたえがありました。

基本桃子にスポットを当てた作品だけに、カメラの焦点も桃子だけに合わせることが多く、背景はぼやけた写し方をした辺りも、彼女の独りぼっち感を高めており、大変効果的だったように感じました。そのせいか、夫役の真守を演じたのが今話題のシンジロー氏の兄貴だと気付いたのは、中盤あたりに彼が風呂場から出てきたシーンでした。前髪を下したヘアースタイルだったこともありましたが、まともに妻と目を合わせて会話をしない夫役の演出が効いていて、観客も桃子の喪失感を味わうことが出来る創りになっており、監督の芸の細かさに恐れ入りました。

また、孤独に苛まれた桃子が執着した猫のピーちゃんとコーヒーカップという小道具も極めて効果的でした。特にピーちゃんは、鳴き声はすれど姿は見えず、これはきっと何かあるに違いないと思わざるを得ませんしたが、案の定そこに物語の秘密が隠されており、それを知ると100%桃子に対して同情とか共感をすることが出来なくなる辺りもかえってリアリティが高まって素晴らしいお話になっていました。

最終的には、桃子も含めた日本社会から、桃子以上の疎外感、孤独感を感じていただろう近所に住むアジア系の外国労働者からの一言や、夫の不倫相手と自分の共通項に気付いたこと、姑との不思議な和解などを経て、どこか吹っ切れた桃子の姿を見られて少しほっとして劇場を後にすることが出来ました。

そんな訳で、本作の評価は★4.5とします。

鶏