全盲の女性・イーちゃんと、同じく全盲な上に重い障害を抱える弟・イブキくん、そしてそのご家族を25年に亘って記録し続けたドキュメンタリーです。2018年に前作が発表されているのですが、本作はそれからの二人と家族の記録も交えた特別編です。
前作を観た時も、「決してお涙頂戴にはしないぞ」「可哀想な人としては描かないぞ」と言う制作者の思いが強く印象に残ったのですが、今回改めて「やはりいい作品だな」と感じ入りました。
本作は、勿論「障害者の映画」ではあるのですが、何より共感するのは「一人の女性イーちゃんの成長物語」として記録されている点です。視覚障害は勿論あるのですが、イーちゃんは自分なりに「こうなりたい」「こんな仕事に就きたい」という望みを少女期に持っていました。しかし、いざそちらに進もうとすると上には上がある事を知り、世の中はそんなに甘くない事に気付くのです。そして、「自分が何をしたいか分からない」と迷路に入り込みます。これって、障害とは関係のなく誰もが通る道ですよね。それがひりひりする思いと共に記録されており、それと向かい合う僕の胸もずきずきしてしまいました。
また、障害者社会のクールな現実も描かれます。イーちゃんは盲学校に通うのですが、そこでは、弱視者による全盲者へのいじめ構造があるのです。つまり、世の中から冷たくされがちな視覚障害者の中でも僅かな差による上下強弱の構造が築かれてしまうのでした。これもどんな社会にも敷衍できる人間の姿です。
更に。子供の頃のイーちゃんは辛いことがあると二階の自室にこもって、ピアノを弾きながら(これが上手い)自分の作ったお話をその場で物語り始めます。これって、「人間はなぜ物語を必要とするのか」を端的に表している記録です。
などなど、本作を強く牽引するのは、どんな時も自分の言葉で思いをハッキリ語るイーちゃんの姿と、「弟のイブキが大好き」の思いです。そして、今回遂にイーちゃんの結婚式が描かれます。おめでとう。覗き趣味で申し訳ないのですが、これからも彼女の変化をカメラと共に見守りたいです。