「愛」ルックバック 星落秋風さんの映画レビュー(感想・評価)
愛
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この作品は、二人の少女が強い思慕によって引き寄せられ、敬愛し睦み合いながら四季を駆け抜け、その深い思い故に対立して異なる道を歩み、冬枯れに永の別れを遂げる話である。
別れがもたらす孤独と冷たさに打ちひしがれた主人公・藤野が、風の便りに儚い希望を抱いて扉を開け、もう一人の主人公・京本の残り香が漂う部屋に足を踏み入れた時、京本が藤野に抱き続けた思いの丈を、無言のうちに知る話でもある。
藤野が漫画を描き続けたのは、決して「幸多かりし」とは言い難かった京本の人生を笑顔で満たしたかったからに違いない。
京本があの便りを即興のうちに描いたのは、自分の半生が詰まった部屋に藤野を連れ込んで、もう一度「背中を見てほしかった」からに違いない。
あのサインがしるされたちゃんちゃんこを着て、無垢な瞳に星のような輝きを浮かべた京本と言う少女が、世界の暗闇に取り残され、自分の殻の中に逼塞する藤野の目を開いた。
光射す外の世界へ、自分達が出会い、共に歩んで来た畦道の中へ、その汚れない手で藤野の手を握り、離さずに引いて行った。
藤野は京本を部屋から連れ出した。
京本もまた、藤野を部屋から連れ出したのだ。
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