「日本で初めてクーデターを起こした男」室町無頼 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
日本で初めてクーデターを起こした男
ざっくり言うなら嫌いではない。
むしろ、物語としては好きな部類だ。
だが…没入感を妨げるものも多いのが残念だ。
音関連が軒並み悪く…BGMは西部劇のようだ。テイストとしてあってはいいと思うけど、どうにも軽い。どのBGMにも煽られる事はなく、流れる度にズッコケてた。それと…俺の耳のせいなのか、台詞が全編アフレコなのかと思う程、臨場感がない。
特にアドリブなんだろうなと思える台詞は耳障りでしょうがない。人が変わっても同じような事しか言わないし、音に奥行きもない。なんつうか、映像で役がついた事もなければ舞台に立った事もないエキストラに適当に喋らせてる感じが拭えない。
主要キャストにしたって、人物の10cm前から聞こえてくるような妙な違和感。
棒術の子が時折口にする関西訛りも意味が分からなくて…どっかのご落胤って設定なのかと思うも、それが活かされるような出来事はなかったようにも思う。
でも、この俳優さんのスペックは高いと思われる。
とても綺麗な目をしてたし、5年後の彼にはしっかりと成長の軌跡が見えた。
撮影部も、序盤のクレーンアップのカットとか揺れまくるし…アレはドローンとかなのかなぁ。意図は伝わるものの表現しきれてないであろう現状を憂う。
編集もカット割も、なんかこう、芯を食ってない感じがずっとする。「ここ」じゃなくて「ここかな?」っていう迷いがある感じで、良く言うならば時代劇のカット割の特殊さが浮き彫りになったと言えるし、悪く言うなら、人物の心情に寄り添ってないとか、アングルのテーマが不明瞭とも言える。
あざとい演出も多かったなぁ…。
なんちゅうか…ずっと70点な感じ。
エキストラにしたって、素人のサッカーみたいな感じで、ボールに群がるような状態で同じ視点の連中しかいなかったりと、演出部の甘さが随所に残る。
とは言え、飢餓状態を表現する為に極端に痩せてる人々を集めてるのには好感がもてた。
俺的には、ずっと惜しいのだ。
物語の背骨は凄くしっかりしてる。
クーデターを起こすに至る前振りもしっかり脚本には書かれてて、そこに絡めて旧友同士のシガラミとか立場故の衝突とか。自分の右腕を育てる過程も悪くない。その弟子を通じて集まる仲間とかは、ちと強引過ぎるが尺を考えるとアレ以上のウエイトを与える訳にもいかない。ただ…残念ながら魅力に乏しい。
キャストに回せる予算も圧迫されたんだろうなぁと同情に近い事を思ってしまう。
棒術の子に絡むアクションは手が込んでて面白かった。カメラがローリングするような事は一回で良かったと思うけど、門前の1カットのアクションとか見事だったなぁ。
覚醒と言うのだろうか、市井の民がずっと抱えてた鬱憤を爆発させたような勢いがあって思わず「行け!行け!」と彼の背中を押してしまう。
クーデター当日はそこそこ面白くて、膨大な人数で何日にも渡ってやったんだろうなと感嘆するし、皆が浮かれて歌ってる途中に、犠牲者のカットを挿入する編集にも悲哀というか、裏側というか、虚しさを表現していて好きだった。
大泉氏も、凄く練習したんだろうなぁと思う。
序盤の関所の殺陣はやたらに距離が近く、まるで半分程の刀を振ってるようで違和感あったけど、総体的には素晴らしかったと思う。
オープンセットも燃やすし、大量のエキストラを投入もするし、メイクは凝ってるし…何より室町時代っていう、あんま扱わない時代の話でもあって、意欲作でもあったろうと思う。
なんだけど!
惜しむらくは、脇の甘さが随所に露呈してしまっている状況を嘆かずにいられない。
敢闘賞に思えてしまった事が残念でならない。
も少し各所に割り振れる予算と時間があったなら、間違いなく化てたと思える。
そう思えてしまった事が残念で悔しい。
余談だが、本作の柄本さんには疑問が残る。
なんであんな芝居したんだろう?
初見は「下手くそだなぁ、どこの爺さんだ」と思ったんだけど、ひょっとして柄本さんってずっと思ってて、彼のラストカットで柄本さんだと確信したくらいだった。
ただ、あの芝居だからこそ周りと浮く事はなかったと思うので、そういう理由なのかなぁと、なんとなく思う。なんか投げやりにも思えるんだけど、新たな一面と思えば挑戦的なアプローチでもあったのかなぁと考える。…監督とソリが合わなかっただけかもしんないけどね。
最近、松本若菜さんをよく見かけるけど、本作も良かったなぁー。
あ、それと北村さんの台詞が衝撃的だった。
「民なぞほっといても増える。儂らが困窮したら税を増やせばいいだけの事」とかなんとか。
今の政治家達も同じような事思ってんじゃないのかと、本作と現代が絶妙にリンクしてるような気にもなってた。
そういう意味でも、現在だからこその意欲作でもあったと強く思う。