「まるで火祭り」室町無頼 おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)
まるで火祭り
冒頭から衝撃的。
室町時代の日本、奴隷としてこき使われる大量の庶民と、路上に放置された飢餓による無数の死体。
「北朝鮮みたい」と思った。
奴隷たちが上官の命令に従って死体を積み上げ山を作っていくが、今まで見たことがない高さの「死体の山」が築かれていて、映画開始数分で「この映画、凄いのでは?」と思わせることに成功している。
最初に社会の腐敗っぷりを散々見せられた後だと、大泉洋演じる剣客・蓮田兵衛が見せる「優しさ」がとても尊いもののように感じてしまった。
兵衛が英雄視されていくのも納得。
音楽の知識には自信が無いが、BGMの使い方が独特。
兵衛が戦うシーンではGメンのテーマみたいなBGMが流れ、時代劇っぽくない。
凄惨なことが起きている場面ではなぜか明るく穏やかなBGMが流れ、奇妙な感じ。
個人的には去年公開の映画『密輸 1970』を思い出すような音楽使いだった。
長尾謙杜演じる兵衛の弟子・才蔵の修行シーンが凄かった。
まず修行の内容が他では見たことがないもので、そのアイデアに感心。
人間には不可能そうな理不尽な内容で、実際最初に才蔵が挑戦したときは完膚なきまでに失敗。
「流石にこれは無理だろ」と思わせておいて、修行を重ねた才蔵はこの試練を乗り越えるわけだが、人間には不可能と思われた動きを長尾謙杜自身が体現していて、その画に感動してしまった。
才蔵が強くなったことを、映像でちゃんと納得させてくる作りが素晴らしい。
兵衛が才蔵に問いかける「銭よりもっと世に動くものは何だ」の答えが、去年の東京都知事選や兵庫県知事選の経緯を眺めていた者としては「たしかに!」と思ってしまった。
大名たちが屋敷に集まって談笑している場面で、庭の向こうの景色に、死体を焼いていると思われる煙が立ち上るのが見え、去年観た『関心領域』のことを思い出した。
この映画最大の見せ場は間違いなく一揆のシーン。
画面内の人口密度がえらいことになっていたが、ただ人が大量にいるだけでなく、みんな火のついた松明(たいまつ)を持っていたため、夜の暗闇の至る所で炎が揺らめく大画面の映像が圧巻で、戦闘が始まる前から血が騒いでしまった。
大量の民衆が京都の街で暴徒化する様子は、血気盛んな若者たちが祭りやフェスで狂喜乱舞しているような感じだった。
正直、兵衛の仕掛けた作戦についてはいまいちよく理解できなかった(結果的に幕府の正規軍と戦う羽目になっていたし…)が、そんなことが気にならないほどの映像の迫力があった。
日本映画でこのレベルはなかなかお目にかかれないと思う。
個人的に本作の中で一番テンションが上がったのは、才蔵が幕府軍に一人で立ち向かう場面。
ここで流れるBGMが、さっきまでは兵衛が戦う場面で流れていたBGMで、魂の継承を感じさせる素晴らしい音楽演出で感動。
この場面はそれだけでなく、アクションにも心奪われた。
個人的に時代劇の殺陣は退屈に感じてしまうこともあるが、本作の剣劇アクションは超人的でアクロバティックな動きも取り入れられていることで、今まで観た時代劇のアクションシーンで最も観ていて楽しかった。
近年の時代劇アクションで一番評価が高い映画作品は『るろうに剣心』だと思うが、個人的には超えてると思った。
この映画の中では税負担と食糧難に苦しむ民衆が一揆を起こして京都を火の海にしていたが、実質賃金は下がり続けているのに増税と食品価格高騰を繰り返すどこかの国も他人事ではないかも。