「「昭和の三船敏郎」と五分互角でやり合える「令和の大泉洋」。」室町無頼 ソビエト蓮舫さんの映画レビュー(感想・評価)
「昭和の三船敏郎」と五分互角でやり合える「令和の大泉洋」。
主役の大泉洋が凄すぎた。大泉洋史上、最高に格好いい役だった。
まず、大泉洋の何が凄いのかについて、改めて考えてみた。
大泉洋が演じる、日本史上では、無名なキャラクターの、蓮田兵衛という主人公。
豪胆で無頼な生き方を貫く、浪人侍の蓮田兵衛を、
仮に、昭和のスター俳優が演じるとしたら、
一体、どんな俳優がこの役を演じきれるだろうか。
真っ先に思いつくのは、三船敏郎だろう。
三船ならば代表作「七人の侍」が、弱者農民を野武士の襲撃から守るという、
室町無頼の土一揆設定と、似たような設定だから適役だろう。
ふむ。それぐらいしか想い浮かばない。
たとえば、日本アカデミー賞最多受賞記録の高倉健には、蓮田兵衛は出来そうもない。
寡黙で不器用な設定の男をやらせたら、日本で右に出る者はいない健さんだが、
健さんは、どちらかというと、時代劇よりも、「時代遅れの男」が似合う。
何よりも高倉健は、そこにいるだけで、作品を成立させるオーラ自体が凄い。
三船敏郎も、オーラ自体が半端ない。
一方で、大泉洋という役者は、高倉や三船のような、
本人が「そう信じ込んでいる事」とは別に、
昭和のスターのようなオーラは、見受けられない。
むしろ大泉洋は、高倉や三船のような、遠い世界にいる存在としてのスター要素ではなく、
近所にいそうな、ひょうきん者でお調子者のお兄さんといった、
観客からみて、身近な存在で、知り合いのような、親しみのある俳優ともいえる。
つまり大泉洋は、同じ時代劇でたとえるならば、
和田竜原作「のぼうの城」の主人公、のぼう様のような俳優。
庶民にとっての「推し」キャラだ。
そういう意味では、蓮田兵衛という庶民のヒーロー的立場の役は、
比較的演じやすいキャラクターかもしれない。
ただ、豪胆で無頼な、庶民の味方な蓮田兵衛を演じる一方で、
エリート武士の棟梁で、警戒心が強く冷徹な一面を持つ「鎌倉殿の13人」の源頼朝、
思慮深く聡明で、真面目な弟思いな「真田丸」の真田信之、
巧みな話術で、天下を欲す野心家な「清須会議」の羽柴秀吉と、
一括りにできない、多様な時代劇配役をこなしているのも、大泉洋のキャリアだったりする。
突き詰めて考えると、大泉洋は演技力の幅が、半端なく広く、
多様な侍を演じても、毎回バズるほどハマる、ポテンシャルの高い演技派俳優なのだ。
「日本で最も軽く見られる俳優なのに、幅が広くも深くも演じられる、近所のお兄ちゃん的名優」
なのが、大泉洋なのである。
さて、ストーリーのほうは、弱者をいじめる悪党の仕打ちを、
耐えて耐えて、忍んで忍んで、
最後に庶民の怒りが、土一揆で大爆発の大騒ぎ、お祭り状態な大破壊祭りという、
ありきたりな忠臣蔵的盛り上がり方だったが、もうそんなのはどうでもいい。
終盤の、長尾謙杜の大立ち回りで溜飲下がり万々歳。
昨今の、どっかの男性アイドルだか、どっかの大物芸人だか、
どっかのテレビ局だか、どっかの財務省だかの、
金持ってる悪党が、庶民にぶっ叩かれ落ちぶれてくサマは、
今も550年前も、大して変わりはない。
目の見える範囲に、屍の山が築かれてるかどうかに違いがあるだけだ。
良かった演者
大泉洋
松本若菜