「権力者よ、庶民の声を聞け!」室町無頼 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
権力者よ、庶民の声を聞け!
原作小説は未読ながら、大泉洋さん主演の時代劇ということで期待していた本作。IMAXで見るほどではないかなと思いつつも、早く観たいという気持ちが抑えきれず、先行上映で早速鑑賞してきました。
ストーリーは、室町時代中期、大飢饉と疫病によって庶民が疲弊し、治安が悪化しているにも関わらず、何の策も講じない幕府や権力者たちに憤り、反乱を企てる武士・蓮田兵衛が、ひょんなことから出会って鍛え上げた青年・才蔵、交流を重ねてきた生活苦の村人たち、噂を聞きつけて集まってきた無頼たちを従え、大規模な一揆を起こして洛中に攻め入るが、その前に兵衛の旧友・骨皮道賢が率いる幕府軍が立ち塞がるというもの。
室町時代を舞台にしているのは珍しいですが、アクション時代劇としてめっちゃ楽しめます。冒頭から、うず高く積まれた死体の山を処分する様子や、借金のかたに妻や娘はもちろん、家財道具から種籾まで奪われる庶民の様子が描かれ、「マッドマックス」や「北斗の拳」を思わせます。その後、配下に加えた才蔵の修行シーンは、師との関係性といい、小気味よいカット割りやカメラワークといい、かつてのカンフー映画を彷彿とさせます。また、野党に狙われる村に策を授けたり、村人に寄り添ったりする兵衛の立ち位置は、西部劇を思わせるものがあり、本作がさまざまなエッセンスを取り入れたアクション映画であることを感じさせます。
まずは序盤、生き地獄を味わう庶民の生活がリアルに描き出されることで、作品背景を理解するとともに、自然と庶民の苦しみに共感していくことになります。だからこそ、そんな弱者を思う兵衛の生きざまに胸を打たれます。剣の腕だけでなく、世の道理や国のあり方を見据える才覚を感じさせるものの、それを私利私欲のために用いることはなく、兵衛はあくまで庶民の平穏な暮らしを第一に考えて行動します。兵衛のまわりに自然と人が集うのも当然のことでしょう。
そんな兵衛の前に立ち塞がる骨皮道賢も、袂を分かったとはいえ、かつては同じ夢を見た友として描かれており、彼もまた兵衛の人柄に惚れた男の一人であったのでしょう。兵衛の最大の敵であると同時に、一番の理解者でもあり、道賢の存在と魅力が物語に奥行きを与えていると感じます。
クライマックスは、かなりの人数のエキストラを動員した迫力の一揆に大興奮です。かつてこれほどまでのスケールで描かれた一揆があったでしょうか。庶民の怒りの具現化として、本作のテーマにもつながるだけに、ここはかなり力が入っていたように感じます。また、ラストの一騎打ちも、二人の心情がわかるだけに沁みるものがあります。大泉洋さんと堤真一さんという異なるタイプの俳優が、それぞれの役にぴたりとハマり、この二人だからこそ醸し出すことのできる雰囲気があったように感じます。
この二人を向こうに回し、長尾謙杜くんが大健闘。演技はベテラン俳優にまだまだ劣るものの、棒術の腕前には目を見張るものがあります。それだけに、クライマックスでのワイヤー感丸出しのアクションが実に惜しいです。ここは小細工せずに、彼のポテンシャルだけで勝負しても十分に見応えのあるシーンになったのでないかと思うと、もったいない気がします。
室町時代の無名な武士による一揆をテーマにした作品を、令和の時代になぜ映像化したのかという感じもしますが、苦しむ庶民を尻目に私利私欲に走る為政者たちの振る舞いは、現代の姿に強烈に重なるものがあります。思わず、”令和無頼”の登場を期待したくなったのは私だけではないはずです。政治家よ、庶民の声を真摯に聞け!
主演は大泉洋さんで、本格的な殺陣・アクションは初挑戦らしいですが、しっかりさまになっていました。脇を固めるのは、長尾謙杜くん、堤真一さん、柄本明さん、北村一輝さん、松本若菜さん、三宅弘城さん、水澤紳吾さん、芹澤興人さんら。こう言ってはなんですが、水澤さんや芹澤さんは、虐げられる村人役が抜群です。