「どこかがおかしくないですか?」Cloud クラウド 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)
どこかがおかしくないですか?
吉井は、工場で働きながらインターネット上で商品を高額転売する、いわゆる転売ヤー。
徐々に転売にハマっていく吉井は工場の仕事を辞め、山奥の湖畔に新たな家を買ってそこで恋人の秋子との生活を始める。
しかし、そんな吉井の周りには怪しい動きが生まれ始めた……
気づいたらどこの映画館も終映になっていたので、最終日に急いで鑑賞。
黒沢清が今回目をつけたのは転売。
なんか感想が難しいね。
これでもかというくらい印象的なシーンの連続なのに……
分からない、掴めない、パッとしない。
まさに雲のような、そんな映画。
大満足なような物足りないような。
全く共感できない、なんなら感情のない話なのに、吉井が見舞われる悲劇の顛末を目撃したくなるのは、自分も吉井という憎悪の対象に対して雲のように湧き上がった1人だからなのかもしれない。
転売ヤーっていうのがまた絶妙。
多分多くの人が転売ヤーの直接的な被害者ではないと思う。
それでも転売ヤーと聞くとその多くの人が不快感を示し、憎悪をあらわにするはずだ。
吉井狩りに集まった面々を見てみると、
・実際に転売されて恨みのある殿山
・単純に吉井が嫌いな先輩村岡
・ゲーム感覚で来た知り合いの殺人犯滝本
・人生に絶望した井上
・暇つぶし感覚の矢部
・社会に恨みのある三宅
といったかんじで関係も目的もバラバラ。
“クラウド”は「cloud」でも「crowd」でもあり、不特定多数の者も含む広義的なタイトル。
我々だって、いつ誰が狙う側や狙われる側になるかも分からない、そんなすぐ隣にあるような恐怖が転売を通して描かれていたように思う。
今、世間で問題となっている闇バイトもそれに近いかもしれない。
どんな犯罪も決して他人事とは言えないのだから。
主人公の吉井良介という人間が気になって仕方ない。
はじめはただの無慈悲な男。
しかし家に帰って彼女と話せば彼女思いの普通の青年。
しかし、転売が彼の全てになるにつれてそんな一面も崩壊していく。
バカ、鈍感、というかもう狂っている。
自宅に上がってきた滝本らに銃を向けられいくら問い詰められても自分の罪を認めない。というか自覚していない。
「僕が滝本さんになんかしました?滝本さんにはむしろ感謝してるんですよ!」
更に状況は激化し、集団が発砲しながら鬼ごっこが始まる。
秋子と再会するも秋子の心配や逃げるよう言うこともなく、まず商品の心配。
なんなら監禁から解放されて一通り殺し終わった後も、一番に商品の心配。
村岡に謝れと言われても一向に謝らない。
村岡にも言われていたが、全て自分の思う通りにいくと思っているのだろう。
なんせ「ラーテル」なんて自分で名乗っちゃうくらいだから。
闇バイトで捕まった少年たちに通じるところを少し感じた。
彼らは人を殺しておいて、何年で刑務所を出れるかと聞いているらしい。
家族もメディア取材に答えていたりと…なんかおかしくないか?
今回も安定の黒沢節全開で安心した。
カーテンとあのよく分からない透明なビニールの幕みたいなのが出てくるだけでワクワクする。
暗い場所から誰かがこちらを見ていたり、だんだん画面が暗くなったり、不穏な影や光が映るだけで興奮する。
そこに今回は本格的なガンアクションと来ればもう間違いない。
登場人物たちの感情を失った喋り方は黒沢映画になればみんなそうなってしまうから面白い。
お気に入りは「コイツ コロース」。
予告から気になってたけど、あれ岡山天音が言ってたんだ!
吉岡さんも『Chime』の感じそのままでとても良い。
鑑賞前にジャンプスケアがあると聞いて物凄くビビっていたけど一箇所だけで、あとは雰囲気でこちらを攻めてくる焦らしプレイ。
そういうところが好きなのよ〜黒沢くん♡
ベイビーわるきゅーれから2日連続で上質な邦画アクションを映画館で観れて大満足。
佐野くんが現場処理を電話で頼んでたけど、あれ絶対田坂宮内のふたりだよねwww
ちょっとクロスオーバー見てみたいかも。
Alexandrosのインスパイアソングもカッケー!!!