「全うに生きられない者たちのどんちゃん騒ぎ」Cloud クラウド 野々ノノノさんの映画レビュー(感想・評価)
全うに生きられない者たちのどんちゃん騒ぎ
主人公は真面目に働く転売ヤーというあらすじだったけれど、特に真面目とも思わなかった。転売屋として儲けることのできる手段を、当たり前に模索し実行している。
もちろん倫理観が欠如しているし、屑でもあるんだろうけど、一番強く感じたのは想像力が欠如した人物像なんだなということだった。ただ相手の立場になって想像するということができない。彼には悪いことをしているという意識もなく、当たり前に相手を慮ることもない。だから相手のこともすぐ忘れる。目的があるわけでもなく、金儲けというより予算残高の数字による一瞬の恍惚や興奮の奴隷になっている。そんな主人公でも人間らしく恐怖し、葛藤し、道徳観が揺り動かされ、慟哭する様は喜劇じみたものすらあった。
この物語にはまっとうな人間がいない。一線を越えた者たち。なにがしかの感情が著しく欠けてしまった者たちしか出てこない。彼らを正しい路線に直そうとするものも出てこない。歪んだ倫理や道徳を抱えたまま、後ろめいた結末へ向かっていく。
面白い。また、演出の力なのか、素人の鉄砲玉でもそれが発砲される度にドキッとした。音や画の力? アクションとはまた違った興奮や恐怖、没入感だった。
ただ、所々辻褄合わせ感のでるシーンがあったり、ネットの悪意がこういう形で表面化していくかはどうなんだろう……と思わされたところもあった。彼と関係のあった者たちはネットの力を使って報復にでるのか? 上手い具合に関係のありなしで比率が別れる。たまたま雇ったはずの男が……という仕掛け。簡単に銃も出てくる。リアルなだけにそうしたところが気になってしまう。ネットの悪意はもっと別のやり方で発現するような気がした。