「転売屋の横流しにはお気をつけて…」Cloud クラウド bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
転売屋の横流しにはお気をつけて…
『クリーピー』や『リアル』、最近では『散歩する侵略者』等、独特の世界観で楽しませてくれている黒沢清監督が、菅田将暉を主演に迎えて描いたサスペンス・スリラー。今や生活の一部となったネット・ビジネスを背景に、それを悪用し、不正な転売によって一攫千金を企む一人の男・吉井。吉井によって騙された者達が、憎悪と怒りを渦巻いて、吉井を吊るし上げようとする恐怖を描いている。
黒沢作品らしく、相変わらず何処で仕入れたのかライフルや拳銃でのドンパチ合戦。次々と銃弾の餌食となっていき、最後も救われないイヤミスの内容。ネット・ビジネスによる転売に着目したのは面白いし、前半の吉井の仕事振りによる掴みも流石だと思った。決してグロさは感じないが、後半は、日本には馴染まない派手な撃ち合いを繰り広げる。しかし、ここまでカモられた男に執着する、被害者たちによる集団心理といのも、動機としてはやや弱さを感じた。
クリーニング工場で働く吉井は、先輩から転売屋の極意を教えられ、犯罪ギリギリのグレーゾーンでの転売を日々繰り返していた。ある日、医療機器の転売で大儲けをした吉井は、クリーニング工場を退社し、恋人の秋子と共に、人里離れた湖畔の家に移り住んだ。そこで、地元の青年・佐野を雇って、転売業を広く手掛けて成功を収め、新生活をスタートさせた。
そんな矢先に、吉井の周りで、夜中にガラスが割られたり、自分の仕事が警察にも知られていたり、不穏な出来事が起き始める、そしてネットでは、吉井の父性転売のによって地獄を見た者達による吉井への誹謗中傷が炎上し、その果てに、『吉井狩り』という猟奇的な集団心理を煽動していった。ターゲットとなった吉井の新生活は、根底から崩れ落ちていく…。
主役の吉井を演じた菅田将暉は、次第に追い詰められて、引き金を引くまでに堕ちていく役柄を、存在感ある演技で魅了している。また吉井の先輩役の窪田正孝の狂気に満ちた表情も、不気味さと怖さを湛えていた。その他にも、恋人役の古川琴音、吉井を狙う役の荒川良々、岡山天音等も、泥臭い演技で個性ある役を演じていた。そして、本作のキーパーソンとなる、佐野を演じた奥平大兼は、表情を崩さない淡々とした演技が却って不気味さを煽る。何を考えてるのか、最後までその存在も目的も謎につつまれままエンドロールを迎えてしまったのが消化不良だった。