「集団心理と依存者」Cloud クラウド ほりもぐさんの映画レビュー(感想・評価)
集団心理と依存者
吉井(菅田将暉)は、真面目に働くことに嫌気がさし、副業だった転売にのめり込んでいきます。
転売そのものが悪か、というとそうでもありません。しかし、彼はいつの間にか一線を越えて、偽ブランド販売などに手を染めていってしまいます。
売れていく商品を無表情で眺める吉井に、少なからず異常性を感じました。そこに依存に近いものを感じたからです。
パソコンに向かっている吉井に秋子が声をかける場面が何度かありました。初めは手を止めて彼女に向き合っていましたが、後半は「後にしてくれ!」と怒鳴っていることから、のめり込んでいることが分かりました。
終盤、襲われて殺されそうになっているのに、まだ普通に転売のことを考えているのも異常でしたね。
元の人間、元の日常から少しずつ足を踏み外し、やがて原形を留めない狂気の存在へと変化していく怖さ、またそこに面白さも感じました。
各々の恨みがネット上で集団心理となって急加速、暴走し、いつの間にか吉井を殺害するところまで突き進んでしまったのですが、距離があるように見えて、実は誰でもアクセスできるネット上の話。日常と地続きであるという怖さがあります。
吉井に味方する佐野(奥平大兼)の、吉井に執着する異常性や、秋子(古川琴音)の付かず離れず一貫しない不安定なところも不気味です。
こういう時は、こう考えて、こう動くだろう。がどこにも通用しないのです。
元々は善悪の判断ができたであろう人々が、狂気に駆られ我を忘れていく姿は本当に恐ろしいですね。
職場の滝本(荒川良々)がアパートの前に現れた時は、特にぞっとしました。
そして、毎回思うのですが、今回もやはり菅田将暉さんは天才でした。
表情や表現が吉井という人物にしか見えないのは、演じる役のつかみ方、解釈に天性の勘がはたらくからなのでしょうね。
本当に素晴らしい才能です。
また、奥平大兼くんもすごく良かった。途中から吉井と形勢逆転し、殺しの指南をするほどの力を発揮していくところや、初めの「ちょっと変な子」から「謎の組織のスナイパー」までの振り切り方が素晴らしかったです。
『Chime』でも完全に踏み外した狂気の人物を演じていた吉岡睦雄さん。「せいぜい楽しみましょ〜!!」は異常さ満載で一服の清涼剤といった趣でした。
「あーもう絶対変な人だ!」という逆の安心感(笑)
キャストの皆さん、どの方も不気味で本当に良かったです。何よりも楽しそうに演じておられるようにお見受けしました。
私も俳優だったらこんなおかしくなる役やってみたいですもんね。楽しいでしょうね!
最後に「ここは地獄の入口か?」というセリフがありましたが、「とっくに地獄やぞ…」とお答えしたくなりました。
いや〜面白かったです。