「大きなものに翻弄されて飲み込まれ、形を変えざるを得ないのが「クラウド」なのかもしれません」Cloud クラウド Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
大きなものに翻弄されて飲み込まれ、形を変えざるを得ないのが「クラウド」なのかもしれません
2024.9.27 イオンシネマ京都桂川
2024年の日本映画(123分、G)
ヘイトを集める転売ヤーに迫る危機を描いたスリラー&犯罪映画
監督&脚本は黒沢清
物語の舞台は、都内某所
工場で働きながら転売を繰り返している吉井(菅田将暉)は、ある医療機器メーカーの資金繰り悪化につけ込んで、希少な機械を安価で買い取っていた
それを定価の半額と称して売り込み、数百万の利益を上げていく
そんな彼は、工場の上司・滝本(荒川良々)に気に入られていて、管理職にならないかと打診を受けていた
面倒だと感じていた吉井はそれを断るものの、滝本はしつこく食い下がり、それを理由に仕事を辞めることになった
吉井には半同棲の恋人・秋子(古川琴音)がいたが、日常を怠惰に過ごすだけの関係だった
ある日、転売のノウハウを教えてくれた先輩・村岡(窪田正孝)から、オークションサイト運営の話が持ち上がる
出資をしないかと打診されるものの、金がないの一点張りでそれを断る吉井
そして彼は、医療機器で儲けたお金を元手にして、都内を離れて、群馬の山奥に居を構えることに決めた
吉井はアシスタントとして、地元の若者・佐野(奥平大兼)を雇い、秋子もそこで住むことになった
映画は、転売ヤーの日常を描き、足元を見ながら商品を仕入れていく様子が描かれていく
医療機器ように足で稼ぐこともあれば、ECサイトで高く売れそうな商品を探すという地味な仕事もあり、吉井は「偽物かどうかわからない商品」にまで手を出していく
さらに販売直前にフィギュアを買い占めるなど、彼のアカウント「ラーテル」は徐々にヘイトを集めていくのであった
映画は、自分の知らぬところでうごめいている感情と、反社会的な商行為を行なっている疾しさなどが重なって、見えない影に怯えるようになっていく
滝本にまとわりつかれたり、偽ブランド品を掴まされて被害にあった三宅(岡山天音)などもいて、そう言った人々が裏サイトを通じて情報を共有していく
そして、そのヘイトを利用する形でゲームを行おうとする矢部(吉岡陸雄)などもいて、とうとう居場所を特定されて、拉致されて軟禁状態になってしまうのである
ここまでは、単なる反社会的行為に対する報復とスリラーの物語なのだが、後半は一転して、ガンアクション映画へと様変わりする
アシスタントの佐野は売人(松重豊)から拳銃を手に入れ、軟禁状態にある吉井を助けに奔走する
おそらくは筋のもので、レベルが違いすぎる故に無双状態になるのだが、吉井が彼を救ったことで、さらに佐野が吉井に入れ込んでいく様子が描かれていく
ラストでは、さらなる裏切りに晒され、驚きとも言えない結末を迎えていく
映画として何を描きたいのかは非常にわかりにくいが、どこか普通の感覚を持っていない人たちがわちゃわちゃして、自分以外の何かに傾倒しているものが生き残っているようにも思えた
いずれにせよ、監督の世界観が好きな人向けの映画で、素人が卸関係の情報を手に入れられるとか、特定のアカウントをずっと使って取引をしているとか、コネもないのにフィギュアを発売当日に買えるなど、意味不明なところは多い
その辺は取っ掛かりとして、「自分の知らないところで悪い感情が育っている」という状況説明のようなものなので、それ以上深く考えてはいけないのだろう
佐野は初めからラーテルのことを知って接近しているのだが、筋の人の新しいビジネスに組み込まれていく怖さというものもあるので、ある意味ではこれからの方が地獄なのかもしれません