「チョコレートとWagyu」東京カウボーイ 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
チョコレートとWagyu
設定やストーリー(全体の流れ)には難があった。
東京で食品系の商社(とは言えM&A専門か)に勤めるヒデキは、経営の振るわない米国モンタナ州の牧場と提携し、経営を立ち直らせようとする。しかし、そのアイデアたるや和牛の導入。そのためには、交配が出発点になるが、経営上の数字だけ見て、現地のこともよく知らず、いきなり現地に乗り込んで行ったりするものだろうか。案の定、うまくゆかない。アイデア自体、30年くらい前のもの。ご本人は、英語というよりはコミュニケーションが得意でなく、それにたけた同行の和牛飼育の専門家ワダ(國村隼の好演あり)は、到着早々、アクシデントでドロップアウト、なぜか終盤、ほぼ無傷で戻ってくる。しかし、寅さん映画と思えば、あきらめもつく。
では、この映画の優れたところはどこか。広々としたモンタナ州の景観に尽きる。厳しい山々、なだらかな丘陵と、そこに広がる牧場、特に温泉。ロッキー山脈の周りには、あちこちに温泉があり「スプリングス」という地名がついているので、すぐにわかる。この温泉に、ヒデキが、駆けつけてきたフィアンセであり、上司でもあるケイコとつかるところはよかった。それにしても、なぜ、ケイコが逃げていかないのか、ヒデキが現地で知り合い、最も心を許したハビエルの奥さんから、会ってもいないうちに見抜かれるくらいだから、たかが知れている。
それでも、この映画を観ていて、気になったことがある。
一つは、チョコレート。ヒデキが、牧場の案件の前に関わった小さなチョコレート工場の製品をお土産に持ってゆくが、米国の人たちには、全く受け入れてもらえなかった。口に入れた途端、吐き出す子さえあり。予想した味と違ったのだろう。滞在先のホテルで良くしてくれた受付の日本びいきの若い女性も、正直に感想をと言われ「Wax(ろう)みたい」と。ヒデキは、珍しいものをと思い「ホワイト・チョコレート」を持っていったのだろう。アメリカでもヨーロッパでさえも、日本と違ってコンビニのような便利な店は少なく、お菓子だって、あれもこれも手に入るわけではない。むしろ、小さい頃から、家族と親しんだ決まったものを食べることがほとんど。おそらく、スイス発祥だが日本で好まれている、甘味もカカオも少ないホワイト・チョコレートなんて食べたことがなかったのだろう。
それじゃあ、なぜ、日本の和牛は、ヨーロッパでも米国でも、あれほど愛されているのか。この前、アメリカに行ったとき、6種類の牛肉が載ったプレートを現地の人たちと分けあって楽しんだが、そのうちの二つは和牛(ただし、US Wagyuと豪州Wagyu)。おそらく、霜降り肉が最も得意にしている「すき焼き」や「しゃぶしゃぶ」ではなく、彼らの最も好きな「ステーキ」に特化して、適度なサシ(脂肪)を加えて、味わいを遥かに増したからだろう。それには、両国とも、交配だけでなく、映画でも出てきた「とうもろこし」などの飼料、松阪牛の飼育で培ったビールを混ぜることを含め、育て方に長年の努力があったに違いない。彼らのブランド、Wagyuと呼ばれる所以。今は、和牛の精子を輸出することなんて、勿論できない。そうしたら、私たちの生きる道は、ワダがそうしていたように、飼育のノウハウを伝えて、商社の力で流通させること、それを改めて教えてくれた映画であったようだ。
日本でのチョコ製造工程の中で、バラの花みたいのを作ってる描写があり、あぁロウソクみたいに光ってる・・と思いましたが純粋に欧米人の好みに合わなかったんですね。それにしても口にしたものを吐き出すな! 他の映画でも不味いコーヒーを噴き出したりするシーンはちょっと受け付けないです。ビールをこっそり捨てるARATAさんも駄目!