「黒人霊歌」ピアノ・レッスン Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
黒人霊歌
囚人農場での記憶を語り合う四人が床を足で踏み鳴らし歌うシーンが好き。
鉄道を移動手段としていた黒人労働者たちが集散する駅舎イエロードッグ。イエロードッグブルースは、黒人労働者たちの「移動性」と「交差性」と「流動性」から生まれたと聞いたことがある。多くのリズムと言葉が交じり合ったブルースを聞くと、誰もが自分と関係のあるような感覚を覚える。
ブルースの本質と同じように、本作の姉、弟、叔父たち、父母、祖父母の気持ちを私は自分のことのように感じられた。
人間が物のように取引され、移動させられ、家族と引き離された祖先の苦しい歴史が、苦しみを自分の声で吐き出すブルースに歌い継がれる。
更に、簡単には自由を得られない彼らの宿命と、今だに残る支配者層の呪縛が、〝白人の幽霊が取り憑いた重たいピアノ〟で表現されていた。
物語は進み、宿命を乗り越えて自由を渇望する弟に白い幽霊が執拗に襲いかかる。聖書の中の神は何の助けにもならない。
重たいピアノの宿命を継承した姉は、心のどこかを閉ざし、かつて母親から教わったピアノを弾こうとしなかった。その姉が、弟を助けるためにピアノを奏で、祖先に助けを乞い呪縛を解く。
宿命や呪縛に対抗できるのは、亡くなった祖先へ思いを馳せ、彼らから強い力を授けてもらうしかない。
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