劇場公開日 2024年5月10日

「『セブン』、『ミスト』に比肩する、すなわちもう二度と観ないけどまごうことなき傑作」胸騒ぎ よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0『セブン』、『ミスト』に比肩する、すなわちもう二度と観ないけどまごうことなき傑作

2024年5月19日
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鑑賞方法:映画館

デンマークから家族と共にイタリアの閑静な田舎のヴィラを訪ねたビャアンは同じく家族連れで宿泊していたオランダ人のパトリックと意気投合。数週間後ビャアン達のもとにパトリックから自宅に泊まりにこないかと誘う招待状が届き、快諾したビャアン達はカーフェリーでオランダに渡り人里離れた家を訪れるがそこでふと感じた胸騒ぎがじわじわとビャアン達の神経を蝕んでいく。

旅先では違和感を感じなかったパトリック達の人懐っこさに潜む強引な押し付けがましさや無作法にイラッとさせられながらも何とか受け流しているうちに侵されたくない領域にまで土足で踏み込まれることになりジリジリと神経をすり減らしていく様は人間関係あるあるに満ちていて観ているこちらもイライラが募り、不愉快さを回避するための二者択一を何度も何度も試されその度に間違った方を選択をするビャアンがパトリック達の正体に気づくカットにゾッとし、その後目を背けたくなることしか起こらないクライマックスに絶望しエンドロールを眺めている心中にはこの言葉しか残りません。

・・・観なきゃよかった。

『落下の解剖学』では家族内での断絶の象徴だった言語の違いが、本作では二つの家族の間に横たわる断ち難い断絶を象徴していて、お互いに何を話しているか判らない疑心暗鬼が終始不協和音として劇中に響いている感じももうとにかく不快。オランダの歌姫トレインチャ・オーステルハウスの美しい歌声も挿入されたりしているのですがそれも全然耳に入ってこない。嫌なものしか映っていないし嫌なことしか起こらない居心地の悪さに耐え切れなくなってうっかり笑ってしまうことにも我ながらビックリするわけですが、その方向感覚を失った条件反射が本作の肝であることにクライマックスで気付かされてしまうストーリーテリングの巧みさにタコ殴りにされて、監督・脚本を手掛けるクリスチャン・タフドルップに対して殺意すら覚えます。ホンマ北欧映画ってエグってくるなぁ、もう!

ちなみに英題タイトルはSpeak No Evil、悪口を言っちゃいけないという良識がズタボロに引き裂かれる悪趣味に血の気が失せました。

『セブン』、『ミスト』に比肩する、すなわちもう二度と観ないけどまごうことなき傑作。とにかく不快なので興行成績でも25位にも入ってないくらい人が入ってないことに胸を撫で下ろしています。

ということでこれっぽっちもオススメしませんよ、物凄い傑作ですけど。

よね