胸騒ぎ : 映画評論・批評
2024年4月30日更新
2024年5月10日より新宿シネマカリテほかにてロードショー
精神的疲労度はR18+級 延々と続く“嫌なおもてなし”が格別の地獄へと誘う最狂映画
人間の感情をストックすることができる“入れ物”があったとしよう。喜怒哀楽さまざまあるが、本作の鑑賞時にピックアップすべきは“嫌悪”。1年間に“入れ物”へと溜まる総量が「100」だとすれば、筆者が本作の鑑賞で得た“嫌悪”は「30」。たった95分の尺で、そこまで充填されてしまう。そんな格別の地獄を堪能することができるのだ。
本作で描かれるのは、善良な家族を襲う悪夢のような週末。休暇でイタリアへ旅行に出かけたデンマーク人一家が、そこで出会ったオランダ人の家族と意気投合。数週間後、オランダ人一家の招待を受けて、彼らの家で過ごすことになるのだが……。
ホラー的“お約束”に当てはめるとすれば、このデンマーク人一家が早速とんでもない事態に巻き込まれるのだろうが、本作はそうはならない。許容できてしまう(かもしれない)嫌なおもてなしが延々と続く。そこがキモだ。行き場のなくなった感情を、ジャンプスケアなどを利用して、易々とは解消させてくれない。だからこそ“邪悪”なのだ。
会話を交わせば交わすほど、生じてしまう些細な誤解や違和感。「あの時は良い人だと思ったのに……なんで?」というデンマーク夫妻の“心の声”が全編に漏れ出ている。コメディにも振り切れる描写は、回数を重ねることで恐怖へと転じていく。主義・信条をないがしろにし、家族という境界を易々と飛び越える。これ以上は我慢ならぬと拒否反応を示せば「そんなつもりはなかった」と反省を示しつつも、すぐさま前言撤回のごとく、同様の“嫌なアクション”を起こす。オランダ人夫妻の“掴みどころのなさ”によって、着々と嫌悪が蓄積していく。
監督のクリスチャン・タフドルップが重視したのは“振る舞い”というもの。これはオランダ人夫妻の“おもてなし”のことも示しているのだろうが、さらに注目してもらいたいのは、デンマーク人夫妻の“振る舞い”だ。彼らは礼節を保つあまり、恐怖から逃れる好機を自ら逸していく。やがて辿り着くのは“もうどうにもならない”というシチュエーションだ。
“嫌な感じ”のパッチワークが進行し、クライマックスではその全貌が遂に露になるのだが、その爆発力たるや……後悔先に立たずとは、まさにこのこと。ここ数年でもっとも「こんな“最期”は迎えたくはない」というおぞましい光景を目の当たりにした。さて、衝撃的過ぎる描写のあまり、鑑賞後にレイティングを確認したのだが、まさかの「PG12」。精神的疲労度は「R18+」クラスといっても過言ではない。
(岡田寛司)
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