「私的この映画に乗れなかった理由とは」パレード komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
私的この映画に乗れなかった理由とは
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
このNetflix映画『パレード』は、いわゆる現世に心残りを持っている死者たちの話です。
私達は死者に対して、一般的には(罪を償っていない犯罪やそれに匹敵する行為がない場合)強い批判を継続することはないとおもわれます。
なぜなら死者は反論の機会を失っているからです。
例外としては、その人の成し得た功績や作品などについて、外化された物として(その内容や作品自体に反論が内包されていて)後に評論されることはあり得ますが、やはり1つの人格としての反論の機会のない相手に対しての一方的な批判は避けられる傾向にあります。
この作品で出てくる主要な人物は、(現世に心残りを持っている)死者たちです。
すると彼らは現実の世界での反論の機会を失われていて、是々非々でもって評価される機会を失っています。
すると、死者たちの描写は良い部分を強調されて表現されることになると思われるのです。
例えば、映画プロデューサーだったマイケル/古賀充(リリー・フランキーさん、若林拓也さん)のエピソードでは、(おそらく亡くなられた河村光庸プロデューサーがモデルになっていると思われますが)彼の撮影した沖縄での米軍基地反対闘争の映画が流されます。
しかし今作の中では、まずマイケルは死者として、そして彼の描いた沖縄基地闘争は劇中の映画作品として、二重に守られることで、彼やその劇中映画に対する是々非々の論評や批判を観客にやり辛くしています。
沖縄の米軍基地問題は、現在も解決されていません。
例えば辺野古基地移設の話を最終的に決めたのは、現在の野党議員の多くが所属していた民主党政権の時であり、そんなに簡単に解決できる話ではないことは多くの人が知っています。
しかし今作では、マイケルは死者として、描かれた沖縄米軍基地反対闘争の映画は劇中映画として、問題への言及はされないように守られています。
マイケルと佐々木博(舘ひろしさん、中島歩さん)との最後の会話では、米軍基地反対闘争の時に自分たちは「団結していた」と語られます。
ただその「団結」は、現在の私達から見れば、問題の現実解決策の本質から、地道な手仕事から、目を逸らせていたから可能だったのではないか?という疑念が現れるのです。
(今作の藤井道人 監督は本質ノンポリで、そこまで深くこの問題を取り扱う気もないかもですが‥)
しかしそんな疑念も、死者の彼らに届く術はありません。
同様に、息子や報道との関係での主人公・美奈子(長澤まさみさん)や、ヤクザや恋人との関係での勝利(横浜流星さん)や、家族の中でのかおり(寺島しのぶさん)など、それぞれ死者であるために、生きた相手との対立や功罪含めた相手との相互の葛藤は描かれないままです。
(ナナ(森七菜さん)が生きて次の周りとの関わり葛藤へと向かえたのは良かったとは思われました。また、アキラ(坂口健太郎さん)は藤井道人 監督の分身であるのか、多少はアキラの父・恵介(でんでんさん)とのリアリティある葛藤が伺えて共感度合いはありました。)
私がこのNetflix映画『パレード』に乗れなかった理由は、出てくる主要登場人物たちが死者として守られていて、彼らの一方的な想いが吐露され続けた所にあると思われました。
今作は特に美術や映像が素晴らしく、さすが予算あるNetflixは違いますね、と思われました。
であるので、今回の実力俳優陣の内容ある演技含めて、次は同様の座組で、相互に関係対立する生きた人々の映画として観たいと、僭越ながら思われました。