マリウポリの20日間のレビュー・感想・評価
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惨劇に意味を持たせるために
そこに映るのは権力に美化され破壊された、人間による人間の地獄の惨状。
怒りを超える何かが、目に、首に、肩に、拳に圧をかける。
一方で次々に流れる涙のように足の先から力が抜け落ちていく。
ネットも遮断される中、同国出身ジャーナリストが命がけで記録したのは事実を世界に伝えるためだ。
極限状態での問いかけに、怯える人々は生きる為に自分が信じたい言葉を振りしぼるように放ち、閉ざされた命は最期の姿でその罪の愚かさを訴えた。
しかし、発信された映像をフェイクだと反論しどこまでも遮る彼らがいる。
いったい人間の心をどこに置いてきたのだろうか。
さもなければ自分が生きられくなるのか?
〝マリウポリはまるで死にゆく人間のようだ。〟
その言葉が示すように戦争は全てを荒さませた。
変わり果てた祖国を嫌と言うほどみつめた彼は言う。
「全てを止めたいが、その力は僕にはない。」
「この異常な破壊の連鎖を止めるためにパパは何をした?…将来娘に聞かれた時、それに対する答えを持っていたい。」と。
陥落したマリウポリの人々はその後どう生きているのだろうか。
そしてリーダーの大義に反対する者は何を思う?
情報は減った。
今はイスラエルの負の連鎖が報道されている。
まだ戦いたい人間たちがいる。
なぜ戦う。なぜ。
気にとめない限り忘れてしまえる遠い国の悲話では済ませてはいけない。
絶望の狂気は他人事ではなく、何より私たちは「同じ」人間なのだ。
同時代の出来事
星を付けるのが、おこがましく感じるが記録しておきたく。
2022年2月24日から20日間の、マリウポリ(英語?ウクライナ語?の発音はマリウポと聞こえた)のドキュメンタリー。日本ではBS世界のドキュメンタリーで既に放送済みだけど、オスカー取ったからなのか劇場公開した様子。
小さい子が怪我して死んで、親は嘆き、道端に遺体が放置されていたり、病院が爆撃されたニュース映像がロシアにフェイクニュースと言われ、粗末な共同墓地に遺体が袋詰めあるいは袋もなく、投げ込まれる(投げ込んだ人は投げたかったわけじゃないってわかってる、悼む間も無くやらねばならなかったんだろう)。家を砲撃されて取り乱して泣く人、空爆、停電、ネットなし、状況わからない、ロシアの戦車、割れたフロントガラスの車で逃げる…
観るのは辛かったけど、観る必要があった。
もっと近くで起きたら、自分の身に起きたら、自分の国がこの映画でロシアがやったことをどこかにやったら…など考えた。
できることは少ないのだけど、以下の私の座右の銘を噛みしめて、学び続けたいと思う。
「今こそ学び、この戦争のような、殺し合い憎しみあう人間の愚かな性を乗り越えた新たな文明をつくるべきです。」
「愚かな行為が人間の性だとしたら、
それを学び、克服することは
人間の使命と言えるのではないでしょうか。」
漫画(アニメ)マスターキートンより 作・浦沢直樹
今
過去でも未来でもなく、今を切り取った記録。
淡々とカウントダウンが進む中、キャタピラの振動と共にロシアがすぐそこまで攻めてくる。
あそこで上がった煙の下で誰かが死んでいる。
始まりは普通の日常。
地元ではそんな馬鹿なことが起こるはずもないと高を括っていた中、火の粉が降り注ぎ、少しずつ世界が壊れていき、気が付けば周りは瓦礫の世界。
クルーが病院に張り付いていた(唯一そこが安全だと誰もが思っていた)ため、奇跡的にも生き延び続けることができる。やがてその病院でさえも安全ではないと知る事になる。
マリウポリでは途中から情報が断絶し、何が起こっているかすら分からず、ただ明日を生きれるかすら不明の状況。
ニュースでカウントされる死者何名の現実がこの記録から炙り出される。
生半可なホラー映画よりも怖い。
息をする暇すらなく終わる。
このドキュメンタリーは人間性を問う記録である。
鑑賞後、何も起こらない日本の日常に戻されてから、我々の行動が問われる。
まさに、これが戦争なのだという数々の映像に言葉を失う。
実際は更に○○、虐殺、略奪が加わり、戦争が終わっても悲しみと苦しみは続きトラウマも残る。
僕はたまに、ふと 「爆弾が降ってこないか心配しなくていいって幸せだなあ」 と思うことがある。だから映画の最初のほうで女の子が、爆弾の音で目が覚めたと言う場面が、いきなり衝撃だった。女の子は思い出して怖くなったのか泣き出してしまった。
建物や地下で身をこごめて爆音を聞きながら、ここに落ちてくるかもしれないとヒヤヒヤしている場面も、ホントの映像だと思うと恐怖が伝わってくる。いま映ってる人たちが突然1秒後に全員コンクリの下敷きになって死んでしまうかもしれないのだ。
これが戦争映画じゃないと実感させられるのが、子供が容赦なく死んでしまうところだ。産婦人科から別の病院へ運ばれた妊婦も胎児も死んでしまう。サッカーしてるとき爆撃を受けた少年も、18ヶ月の赤ん坊も死んでしまう。まるで希望がなく、ただ悲しみだけだ。戦争映画じゃこんなふうにならない。
画面に映ってた人でも今は生きてないかもしれないと思ってしまう。
2年が経ち、自分の中ではニュースの中でたまに聞く、遠い国の出来事になってしまった。
ロシアウクライナ戦争で、露が邪悪で民間人を殺された、とPRする映画
ロシアウクライナ戦争で、露が邪悪で民間人を殺された、とPRする映画
3万人死亡、病院も攻撃され、妊婦や子供も死んだ。露は戦争犯罪。
とただ主張する映画。
東京大空襲では数万、広島・長崎でも10万の虐殺。
一夜にして、病院も学校も灰燼。。。
【AP通信取材班が命懸けでウクライナ・マリウポリが壊滅するまでの惨状を記録した緊迫感溢れる哀しきドキュメンタリー作品。今作により、ロシアの戦争犯罪が全世界に認知された画期的作品でもある。】
■今作は、観ていて、非常に心理的にキツイ映画である。そしていつの間にか、哀しい涙が滲んでいる作品でもある。
だが、今作は現代世界の暗黒状態の縮図であり、国際政治もしくは人権に関心のある方は、機会が有れば観て頂きたい作品である。
◆感想<Caution!!内容に触れています。>
・冒頭、ロシアを統べる男は、あの能面の様な顔で、”一般人には危害は加えない。”と宣う。
・AP通信取材班による抑制したナレーションが効果的で、上映中、ドーンドーンという爆撃音が腹に響く。且つ、劇伴は一切ない。
・私たちが見るのは自宅を爆撃され泣いている老婆、サッカーをしている時に爆撃され両足を失い、死んだ息子の頭を慟哭しながら、抱きかかえて泣く父親の姿である。
・更に脳内が怒りに満ちたのは、ロシア軍が病院へ爆撃した後のシーンである。
産婦人科、小児科が被害に合い、血塗れで担架で運ばれる妊婦、心配蘇生も空しく亡くなる赤子の姿である。そして、泣き崩れる若夫婦の姿である。
ー このシーンだけで、ロシアの赦されざる戦争犯罪が明らかになる。
病院を爆撃するという事は”人道に対する罪”だからである。-
■そのような状況下、医師が自らAP通信取材班に申し入れ、メッセージを送る姿が心に響く。
- これが、現実だ!この惨劇を世界に伝えてくれ!!-
・ロシアは通信網を遮断するが、AP通信取材班は電波が届く僅かな場所から、情報を分割で本部に送る。
だが、それに対してロシアの報道は”フェイクニュースである。”と言う反応をし、やり過ごそうとする。”全て芝居だ。”とまで言う。被害者は演者だと言うのである。
ー 怒り心頭に発するシーンである。ー
・更に悲しいのは、マリウポリの民が同胞の店から品物を強奪するシーンである。
ー ナレーションでは、情報が入らない苛立ちが原因と言われるが・・。人間の尊厳を失わせる戦争の姿・・。-
・AP通信取材班がウクライナ特殊部隊に護られ、ロシア軍に包囲された病院からの脱出シーンは物凄い緊迫感である。
<この貴重な映像に対し、国際社会は託されたウクライナ・マリウポリの民の想い、希望を受け止めているのだろうかと思った作品である。
因みに米国共和党の大統領選候補者は、大統領になったらウクライナへの支援を打ち切ると明言している。
米国民の方々の、自国ファーストではなく、現代世界の状況を俯瞰した上で、候補者を選ぶ選択に一縷の希望を託したい。
日本もウクライナに対しお金の支援をしているが、他に何が出来るかを考えさせられた作品でもある。>
観る覚悟
観る覚悟が足りていなかった。たった20日間?いや、とてつもなく長く感じた。
特に前半の病院のシーンが辛すぎた。映画館で初めて貧血になった。血の気が失せて、座っているのも辛くなった。直視できないシーンが続いた。ある日突然、車を、家を、家族を失う人々。やるせない怒りを記者にぶつける人々。爆撃で傷を負った妊婦。道端に横たわる遺体。
ロシアはあくまで、民間人は砲撃していないと言い張る。記者たちが必死に世に送り出した映像は、フェイクニュースだ、テロリズムだ、と。
当たり前だけれども、戦争の映像を届けてくれる記者たちも死を覚悟して映像を撮り続けているということを痛感した。
映画館を出て、当たり前のように平和な繁華街を歩く。平和な場所に生まれた自分の立場を考える。
(オンライン試写会は内容に関係なくネタバレ扱い)
今年160本目(合計1,252本目/今月(2024年4月度)34本目)。
(前の作品 「人間の境界」→この作品「マリウポリの20日間」→次の作品「ゴジラ×コング 新たなる帝国」)
正規の公開日より3日ほど早くオンライン試写会に招いてくださったfansvoicejpさまに感謝を。
映画というよりドキュメンタリーで、NHKでもともと放映されていたようです。ロシアのこの侵攻は当時は毎日のように報道されていたことはご存じの通りですが、戦争の拡大にともなって一つの都市「だけ」を追って報道する(される)ことは少なくなりました。
この映画はそれを一つの都市に焦点をあててまとめなおした、という立ち位置になります。
どうどこをとらえてもドキュメンタリー映画で、映画に「娯楽性」を求めていくのならおすすめはできませんが、映画(映画館)というのは娯楽性「のみ」を求めるのではないというのが個人の考え方です。このような広く多くの方が知るべき事項を映画館が「代理」して放映している(換言すれば、本来は行政なりが教育映画として流すべきもの。戦後の混乱期には市営・都道府県営の映画館は結構あり、こうした「教育映画」は多く流されていた)ものであり、こうした「ぜひとも知っておくべき事項」を映画館で流すことには大きな意義があると思います。
なお、ミニシアターやVODなどを中心に、他都市を扱った映画も他に公開されていますので、ウクライナ侵攻について一通り(どの都市でも)まとまった知識を得ておくならそれらを利用するとよいかなと思います。
採点にあたっては減点対象まで特に見出しにくい(ウクライナ語?の看板に日本語訳がないのが気になりましたが、描写の前後関係から「立ち入り禁止」や「速度出しすぎ注意」などある程度推測できる)のでフルスコア扱いにしています。
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