「それなりに面白いが、本当に楽しめるのはアメリカ人だけか・・・?」アメリカン・フィクション tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
それなりに面白いが、本当に楽しめるのはアメリカ人だけか・・・?
冗談のつもりでヤケクソ気味に書いた本が大成功を収めてしまうという本筋の話は、皮肉が効いていて面白い。
「自分がやりたいこと」と「人から望まれること」のギャップというのは、誰もが経験し得ることだろう。
何らかの属性を持つ人々を、ステレオタイプなイメージで一括りにしてしまうというのも、誰もが陥りがちな「思考の罠」かもしれない。
そういう点では、普遍的なコメディーとして楽しめるのだが、その一方で、「米国社会における黒人の問題」という特殊事情となると、やはり、日本人には理解が追いつかないところがある。
差別、貧困、低学力、暴力、犯罪、麻薬、そして悲惨な死といった黒人に対する固定観念が、知識階級の黒人を疎外しているという構図や、白人の贖罪の意識が利益をもたらすという経済的な仕組みは、確かに興味深いのだが、頭では理解できるものの、それを肌感覚で実感することは難しい。
映画としても、「あぁ、アメリカ人だったら、もっと楽しめるんだろうなぁ」と思わせるところが少なからずあり、残念に思ってしまった。
突然の死を迎える妹、ゲイの兄、アルツハイマー病を発症して介護が必要になった母親といった、主人公が抱える家族の問題が、小説家としてのドタバタ劇にうまく絡んでこないところも気になった。
ただ、これについては、仮に主人公が、そうした黒人としての特色が何も感じられない「普遍的な家庭の話」を小説にしたとしても、やはり、売れないだろうなとも思えてしまう。
ラストで提示される3つのエンディングについては、監督が選んだ「主人公が警官に射殺される」というオチが一番面白いと思ったが、そこで、ふと、自分もステレオタイプな黒人像に囚われているのではないかと気付かされて、ドキリとしてしまった。