「かなりいい」アメリカン・フィクション まままさんの映画レビュー(感想・評価)
かなりいい
最近の映画は絶賛多様性の波が来ているわけで、批評家や観客が想像する被差別側のイメージが先にあって、それを満たしてくれるような作品が評価されている。
バービーがフェミニズムのそういう一面を皮肉ったのと同様に、この作品は黒人差別問題のそういう一面を皮肉っている。
一般にイメージされる黒人とは少しズレた、エリート黒人家族。
医者だらけの中、主人公は純文学作家。
白人3人賛成、黒人2人反対で、黒人の意見に耳を傾けなきゃとか言いながら白人の賛成票で受賞作が決まるシーンはなかなか印象的。
最後もエンディングのパターンを3つ提示して、白人警察による射殺が好まれるという皮肉で終える。
そういった話と同時に、主人公自身の傲慢さも浮き上がらせている。
自分こそが知的であるのだという傲慢さが、同僚の大衆作品を馬鹿にするし、ゲイの兄弟を理解しない。
売れっ子黒人作家に、インタビューをしているとは言え、あなたは他人の黒人あるある話を作品にしてそれが黒人への新しい偏見を作り出している可能性を考えないのかと問う。
相手の作家は世界の流れを主人公より、より客観視している印象がある。
主観性の純文学を賞のために競わせることに関しても、極めて落ち着いた視点を持っていた。
黒人問題に関しても、まずは今の現状を広げることによってのみさらにその奥の問題が見えるようになるのだと。
主人公が馬鹿にする陳腐さをも受け入れた大人な姿勢がある。
主人公は賢さ故の排外的な一面がある。
それは父親譲りなのだと気づく。
母はその父親の孤独さを見抜いていたと話す。
多様性にスポットが当たる流れが来たからこそ、今度はそのスポットからさらに外れたところにスポットを当てる。
例えばTARでは、活躍する女性にスポットを当てる流れが来たからこそ、そういった女性のもつ傲慢な部分を描いた。
今作では、被差別の黒人を描かれてきたからこそ、そこから漏れた真の黒人の実情や内面を描いた。
次の段階が来ているのを感じる。
あと、わかりやすい大衆作品をジョニーウォーカーのレッド、純文学作品をジョニーウォーカーのブルーで表現しているのがなんか良かった。