【推しの子】 The Final Act : 特集
【推しの子】実写化は“大丈夫”なのか? 原作ファンがプロデューサーにガチ質問してきた。原作愛はどれくらい? ネガティブ意見をどう思った? 再現度は? キャラ解釈ちゃんとしてる? 原作の赤坂アカ先生&横槍メンゴ先生はなんと言ってる? ファンを失望させない保証は?【忖度なしインタビュー】
2024年1月、日本中にこのニュースが駆けめぐった際に、ファンの1人として率直に感じたことは
だった。
ネット上も同様の感想で、原作ファンを中心に“ネガティブな反応”が多く目についた。もちろん、待望する声も少なくなかったものの、“大歓迎ムード”とは口が裂けてもいえない情勢だった。
あれから約10カ月。24年11月28日午後9時、ついにドラマ(第1~6話)がAmazon Prime Videoにて世界独占配信開始。12月5日(木)午後9時に第7~8話が同様に配信。そして12月20日(金)から、映画「【推しの子】 The Final Act」が全国公開される――。
原作ファンを失望させる実写映画化は山ほどみてきた。製作陣の原作愛が足りていないのでは、と感じる作品もしばしばあった。その逆に、ファンを唸らせ、そしてファン以外もその原作の虜にする実写映画化も多くみてきた。
さて、【推しの子】はどっちだ? 本編で判断するより前に、ファンとしての疑問を、実写化の発起人=プロデューサーにぶつけてみたいと強く思った。
キャスト・スタッフの原作愛は? 原作再現はどれくらい? キャスティングは完璧? キャラ解釈・考察はちゃんとした? 赤坂アカ&横槍メンゴ両先生はなんと言っている? ファンからのネガティブ意見をどう思った? ファンを失望させない保証はどこにある?などなど、答えにくいことでも、腹を割って正直に答えてほしい……。
というわけで。映画.comから「忖度なしでプロデューサーにガチ質問したい」との企画書を製作&配給・東映に提出したところ、普通はこの手の企画は嫌がられるのだが、拍子抜けするほどあっさりとOKが出た。快諾だった。むしろ東映サイドが前のめりだった。
2024年11月某日、実写化計画を取り仕切った中心人物・井元隆佑プロデューサー(35歳…原作の雷田さんと同い年!)と対面。多岐にわたって深堀りしたインタビューを、逃げも隠れもしない特大ボリュームで、たっぷりとお届けする。
【取材対象の紹介】
井元隆佑プロデューサー:【推しの子】実写化の企画・プロデュース。2012年、東映株式会社入社。ドラマ企画制作部所属。東映創立70周年記念映画「レジェンド&バタフライ」(23)では、企画をゼロから立ち上げ、プロデューサーを務めた。他にも映画・テレビドラマプロデューサーとして「刑事7人」シリーズ(EX/17~21)、「三屋清左衛門残日録」シリーズ(時代劇専門チャンネル/18~)、映画「闇の歯車」(19)、「監察の一条さん」(EX/22)、「キッチン革命」(EX/23)等、幅広いジャンルの作品を手がける。
【12月20日公開「【推しの子】 The Final Act」作品概要】
赤坂アカと横槍メンゴによる大ヒットコミック「【推しの子】」を、Amazonと東映がタッグを組みドラマ&映画化。2024年11月28日からAmazon Prime Videoでドラマシリーズ「【推しの子】」全8話を配信。12月20日から映画「【推しの子】 The Final Act」が公開。
●以下、井元プロデューサーのインタビュー。まずは「どのくらいガチのファン?」を聞く
――【推しの子】実写化計画のプロデューサー・井元隆佑さんにお話をうかがいます。腹を割って正直にお話しいただきたく、本日はよろしくお願いします!
井元隆佑プロデューサー(以下、略):はい、企画を聞いてドッキドキしながら来ました。よろしくお願いします。
――まずは「どのくらいガチの人がつくっているのか?」が重要なので、井元さんの【推しの子】ファン度を聞かせてください。【推しの子】はどれくらい好きですか?
“ファン”という言葉の物差しは様々なので、表現は難しいですが、原作は数えきれないほどの回数を読み込みましたし、脚本家・北川亜矢子さんとの脚本づくりの段階で、原作のコマとセリフはほぼ記憶できていました。
そのうえで、北川さんと原作愛を持ちながら、決定稿を製本するギリギリまでとにかく細かく議論していきました。
――原作のコマとセリフをほぼ記憶している……?
しかし、どうしても立場上、世間一般で言うところの「ファン」とは少しズレてしまうかもしれません。とはいえ脚本づくりにおいては、何周もしている大好きな作品に向き合わせてもらっている以上、そこに対する感度は高かったかと思います。
●単刀直入に「この実写化、大丈夫?」を聞く…赤坂アカ先生&横槍メンゴ先生の“実写化への参加具合”についても質問
――いち原作ファンとして【推しの子】実写化を聞いたときは驚きましたし、最初に浮かんだ言葉は正直言って「だ、大丈夫なのか?」でした。単刀直入に聞きますが、今回のドラマ&映画は大丈夫でしょうか?
井元プロデューサー:ドキッとする質問ですね(苦笑)。いま言ったとおり、ファンにも様々な形がありますが、私は原作を読んだ際に「実写で観てみたい」「映像として表現できる何かがある」と思ったタイプのファンなんです。
そのうえで【推しの子】が好きな1人として、真摯に向き合った結果がいまの作品であり、その姿勢に関しては揺るぎない自信があります。
少し個人の話をさせていただくと、私は35歳ですが、これまで映画「レジェンド&バタフライ」(※編集部注:木村拓哉主演 大友啓史監督 総製作費は20億円とも言われる)ほかをプロデュースし、大なり小なり様々な経験値を積んだなかで、自分の持つメソッドは全てこの【推しの子】に注ぎ込めました。
――なるほど、向き合ったことに関し、揺るぎない自信がある、と。実写化の交渉時、赤坂アカ先生と横槍メンゴ先生の反応はいかがでしたか? また、原作のおふたりはこの作品にどのように関わっていますか?
実写化の企画コンペ(※編集部注:複数社が実写化を提案し、そのなかから東映が権利を入手した)の段階で、赤坂アカ先生&横槍メンゴ先生&集英社さんサイドには「映画+配信ドラマの構成でいきたい」とはお伝えしていました。
映画1本分でダイジェストのように描くのではなく、1巻で提示された謎を、ドラマと映画でしっかり回収できるところまで描きたい、という想いは最初からご理解いただけたかと思っています。
おふたりの本作への関わりですが、企画の最初から「赤坂先生に脚本をチェックいただきたいです」と、早々にこちらからお願いしていました。ちなみに、ちょうど原作が4年半の連載に幕を閉じましたが、このクライマックスの流れは2年前からお聞かせいただいていまして……。
――2年前から知っていたんですか!?
はい、「とんでもないものを聞いてしまった……」と衝撃を受けましたし、その際に「企画コンペで提案したドラマと映画で描く構成は間違ってなかった」とも思えて嬉しかったです。そこからは改めて両フォーマットで描きたいことを整理する作業でした。
そして、クライマックスへの流れを知ったうえでドラマ・映画の行き先を決められたのは本当に大きかったです。「であれば、ここはこういう風にしたい」と、赤坂先生と打ち合わせながら、物語構成やキャラクターの感情面などを作っていけましたから。
一方で、横槍メンゴ先生にはアイドル衣装周り等のデザイン面や、B小町の楽曲についてやり取りをさせて頂きました。おふたりのおかげで、本当に心強かったです。
●ドラマ・映画の物語はどこからどこまでを描いている? 大きな変更点や削除された要素などはあるか?
――ドラマ・映画の物語は、原作のエピソードのすべてを描いているのでしょうか? 結末が原作と違う、など大きな変更点はありますか?
井元プロデューサー:ドラマ・映画のストーリーは、赤坂先生の物語を忠実に描くことを徹底しつつ、構成には挑戦となる要素を組み込みました。配信第1話で“転生前”をあえて一度飛ばしたのは大きな賭けです。その分、映画ではしっかりと表現しています。
更に我々の強みとなるフィールドを駆使して、ドラマ8話と映画1本で物語のクライマックスまで描いています。
一方で、ストーリーの“流れ”は原作に沿いつつも、ディテールでは、どうしても変更や削らないといけない部分がやはり出てきてしまいました。ですが、赤坂先生からは何度か「面白ければOKです」と言っていただけていました。
――「面白ければOKです」……。信頼されている一方で、恐ろしい言葉でもありますね。
我々にボールをいただく状態だったので、プレッシャーは何十倍にも膨れ上がりましたが、期待をしていただけているぶん、応えなければ!というマインドになりましたね。
そのうえで、どうしても取捨選択しないといけないことが、本当に一番つらかったです……例えば「深掘れ☆ワンチャン!!」のパートは圧縮していたり、ほかにも「このセリフは入らないな」「このシチュエーションは、整合性を取るために省かなきゃいけない」とジャッジしたり……好きな作品だからこそ、原作のエピソードやシーンを全部描きたいんですが、泣く泣くカットすることが何より苦しかったです……。
一番悩み、かつこだわった部分でいうと「横槍メンゴ先生の美しい作画をどう現実のビジュアルで映像化するか」でした。【推しの子】以前から存じ上げている、大好きな作家さんですから。
●「展開を変えるのはいいけどキャラを変えるのは無礼じゃないですか」――原作の再現度はどれくらい? 重要視したのは「キャラ解釈」
――ドラマ&映画の一部を先んじて拝見しましたが、赤ちゃん時代のアクアとルビーがヲタ語りをしたり、ぴえヨンが出てきたり、アクアの目に光が宿るなど、原作で印象的だった、しかし実写化が難しそうな細やかな演出も、今回はあえて描写していますよね。シーンの再現に関しては、どういったスタンスだったのでしょうか?
井元プロデューサー:様々な意見があるのは承知の上ですが、私がいちファンとしてやってほしいと思うところはできる限り実現を目指しました。
一方で先ほども言ったとおり、「ここは難しい」と思うところに関しては、冷静に判断するようにはしていました。とはいえそれでも、個人の気持ちとしては泣く泣く落としたセリフやシーンばかりです。
そのうえで、ひとつ印象的だったことが、撮影現場での出来事です。原作でアクアと有馬かながキャッチボールをするシーンの「アクアとするのが初めて」というセリフは、ひとつのシーンとしては情報量が多すぎると感じて、脚本からは苦渋の想いで一度、外しました。
ところが現場に行くと、有馬役の原菜乃華さんが、そのセリフを“復活”させてくれたんです。彼女のアドリブです。シーンとしてもしっかり成立していましたし、泣く泣く落としたところを、原菜乃華さんが補完してくれました。ほかにもアクアが、有馬をB小町に勧誘するシーンは原作どおり「有馬に片膝ついて頼む」ようにしてくれたり、原作を読み込んだ役者が芝居で脚本を補完してくれる機会もありました。
とにかく【推しの子】好きが集まり、キャラクターに注ぐ愛情を、一つ一つの芝居やシーンで表現した結果、実現できたことが本当に多くあります。
――原作の2.5次元編に「キャラ解釈さえあっていれば、物語の筋から外れていてもいい」といったセリフがありますよね。実写化に際するキャラ解釈の深さは、どれくらい重要だと考えていましたか?
2.5次元編には「展開を変えるのはいいけどキャラを変えるのは無礼じゃないですか」というセリフもありますよね。あれはきっと先生方ご自身も思っていることだと思って、(キャラを変えないことは)大切にした部分のひとつです。
だからこそ、キャストとの本読み(台本の読み合わせ)は何度も行い、入念にキャラ解釈・考察を深めていきました。「この人物はこうだから、こういうトーンで言うんじゃないか」と現場でディスカッションしながら進めていくチームになれたのも大きかったです。
なかなかこういう現場ってないんです。原作が好きだからこそ楽しみながら、学園祭の前日のような、体力的にはしんどいけど、ものづくりの楽しさが勝っている状態が4カ月半くらい、ずっと続いていました。
●キャスティングでは「原作好き」はもちろん、「本人の経験がキャラとリンクするか」が重要ポイントに…さらに「“大人の事情でキャスティング”を一切しなかった」
――原作ファンからすると「原作好きの人に制作してほしい」と考えるわけですが、キャスティングの判断基準に「【推しの子】ファン」があったということですね?
井元プロデューサー:もちろんありました。キャスティングだけじゃなく、スミスさんと松本花奈さんの監督陣をはじめ、スタッフィングにおいても重視したポイントです。
キャスティングに関してはひとつ、原作好きのほかに、本人のバックグラウンドや素養を非常に意識しました。まさに芸能界に身を置くキャストの皆さんが、生身の人間として演じるからこそのリアルさの追求の為です。これは実写ならではと、感じました。有馬かなだったら天才子役として若くして成功した方がいいと思い、原菜乃華さんにオファーしました。
また、ルビー役の齊藤なぎささんは、アイドルグループ「=LOVE」として東京ドームに立てなかったという背景が、ルビーにリンクされ、素晴らしくストーリーを補完してくれると考えていました。
アクア、あかね、MEMちょ他、ご出演の皆さんも同様です。恋愛リアリティショー編のキャストも「オオカミちゃん/オオカミくん」(ABEMAの恋愛番組)シリーズに出演経験のあるメンバーを揃えました。
そしてアイ役の齋藤飛鳥さんの場合は、アンダー(選抜メンバー外)から、センターまで上り詰めている説得力と、アイの陽と陰の一面を魅せるには彼女の性格がマッチするんじゃないかと思い、ご相談しました。一度断られてしまったのですが、めげずにアタックして最終的にはポジティブなお返事をいただけました。
――現実と役をリンクさせる方法論は、原作の2.5次元編の鏑木プロデューサーと同様ですよね。例えば現実世界でもカップルになったアクアとあかねを、物語上での相手役に起用するという。
ですね。ちなみに各事務所には「撮影期間中に他の作品を縫わないようにしてほしい。それくらい、この作品だけに向き合ってほしい」とお伝えしていました。メインキャストは全員、髪を実際に染めていますが、これは策略で、物理的に縫えなくなるからですね(苦笑)……というのは冗談ですが、キャストの皆さんが朝起きて鏡を見た時に、髪色の染まった自分を見て、役へのスイッチを入れてもらう、そんな狙いもありました。それくらい役に向き合ってほしかったんです
――結果的に、理想的なキャスティングができたと考えていますか?
はい、そう考えています。今回は“大人の事情や会社の都合でキャスティング”を、一切しませんでした。原作好きとして、こちらからアタックしたい人に一人ずつ当たっていくことを徹底できました。
●気になる「原作の赤坂アカ先生&横槍メンゴ先生は、実写化をどう思っている?」を聞く…「本当に再現度が高くて、応援しています」
――こうしてお話を聞いていると、【推しの子】の物語と今回の制作過程がリンクしているように思えますが、いかがでしたか?
井元プロデューサー:そうなんですよ! 私たち自身が【推しの子】の世界に入っているような感覚さえありました。【推しの子】はよく「芸能界の裏側を描く」と言われていますが、私たちが映画づくりで行っていることのリアルや、ものづくりの喜びも描かれている作品なんです。エンタメに昇華してはいますが、業界にいる自分からしても嘘がないと感じます。
赤坂先生は取材元を明らかにしていませんが、相当関係者から密に話を聞いたんだろうな、とは常々感じていました。実は私も、赤坂先生と打ち合わせをしたときに「映画のプロデューサーってどういう風に作るんですか?」と逆質問を受けたことがありました。そのときに伝えさせていただいたことが、原作の「15年の嘘」編に活きている面もあるかもしれません。
もしかしたら何らかの影響や参考にしていただいた部分もあるのかなと思い、そうした意味でも私たちが【推しの子】の世界に入れてもらう感覚を抱いた、という他の作品にはない、特別かつ貴重な経験になりました。なので申し訳ないですが、勝手にとても楽しませていただきました!
――ちなみに、現段階での赤坂アカ先生&横槍メンゴ先生の反応はいかがですか?(取材日は11月で、原作2人の本編鑑賞前)
おふたりには二度、撮影現場にお越しいただきました。やり取りはしていましたが横槍先生にお会いするのは初めてで、(本人に会えるということで)私が一番ドキドキしていました。新生B小町の3人が初めてファーストステージに立つシーンでしたが、海音くん含めた4人も緊張しすぎて、全然、赤坂先生と横槍先生に近づかなかったですね(笑)。
――ガチなファンの動きですね(笑)
そのときに横槍先生が「本当に再現度が高くて、応援しています。すごく楽しみにしています!」と言って下さった瞬間から、急にカッ!って(笑)。スタッフやキャストを紹介する間も、先生たちはずっと笑顔で、一気に我々の士気を上げてくださいました。その日は大雪だったんですが、スタッフみんな喜びながらビチョビチョになって帰りました。
●実写化第一報で賛否両論が噴出…そのとき、プロデューサーはどう思っていた?「たくさんの反応に安堵した」
――【推しの子】実写化の第一報では、世間の反応は様々だったかと思います。ネガティブな意見も多かったように見受けましたが、井元さんは反響をどう受け止めましたか?
井元プロデューサー:この仕事をやっていて一番悲しいのは、“届かないこと”です。企画前から賛否があるのはわかっていましたし、発表によってまず知ってもらえたこと、たくさんの反応があったことに安堵しました。
もちろん、ネガティブ意見をみて、改めて原作の恐ろしいまでのパワーを痛感し「ちょっと怖い」と思うことはありましたが、これだけ世界中から愛される作品を任された以上、ここからいかに“正しい順番”で情報を伝え「この作品を面白そうだ」と思ってもらうお祭り状態に出来るかと、改めて気合いも入りました。
実写化発表のときは、実は撮影の真っ只中で、撮影中のタイミングで解禁するかどうか、社内でも意見は割れました。ただ「【推しの子】実写化」と情報を出すことで、その後に撮影予定だったアイのライブシーンのエキストラの皆さんを格段にお声がけしやすくなり、映像のクオリティを上げることができました。
結果的には、約2300人の方々に参加していただき、いいシーンにすることができたと思っています。
●実は東映100%出資&「原作好きのプロデューサーがワンオペで製作」していた…ゆえに「お金がない」「時間がない」を言わず、“原作好きが求めるクオリティ”を追求することが可能に!
――「本気でつくった」と製作サイドが言っても、原作ファンは簡単には納得しないものですよね。本気度を示せる要素は、ほかになにかありますか?
井元プロデューサー:そうですね、繰り返し「本気でつくった」と言っても、なんだか嘘くさく聞こえますよね。
今回、映画は東映一社で100%出資しています。ドラマシリーズはAmazonさんに多大なご協力を頂いた上で配信となりますが、ライセンス保持者は東映です。プロデューサーも実質、クリエイティブ面はワンオペで取り組むことが出来ました。もちろん一人で製作したという意味ではないです。シンプルに一人の製作のプロデューサーとして、監督を筆頭にクリエイターたちと“がっぷりよつ”で作れる環境でした。
――このプロジェクトを、実質、ワンオペ……?
この規模でなかなかないんです。普通は製作委員会方式になり、色々なプロデューサーが参加しますから。
製作委員会方式だと、資金面などでリスクヘッジができる反面、(原作ファンか否か関係なしに)さまざまな人や会社、それぞれの都合を聞く必要がありますが、本作に関してはそれは全くなかったです。製作費も(原作が好きな)自分が腹をくくれば「会社の許可をもらってきます」と現場を離れなくて済みました。
まずは、お金や時間がどうこうでクリエイティブの可能性を狭めたくなかった。そこに対する責任は取ると腹を決めていたので、その意味で「本気」と言えるかと思います。もちろんいたずらにお金をかければ良いかということでもないので、しっかりとかけるところ、かけないところのON・OFFは各スタッフの皆さんに協力をお願いしていました。
――これはつまり、原作好きが、会社をフルに使って、“原作好きの1人として観たいもの”をつくった、ということでもありますよね。
「色々な都合でCGがしょぼくなった」と言い訳したくないですし、スタッフに「時間がない」と言わせてしまうのも、納得できないんです。
個人的には(妥協せず駆け抜けられた)「レジェンド&バタフライ」での経験がいきていると思っていて。だから【推しの子】でも「何かが足りないときに明確な意思や理由があれば、こっちがなんとかする。だからクオリティを上げていこう」と、一つひとつ課題を解決していけたことが、クオリティにつながっていると思います。
この作品だけに集中する時間や体制を敷いてくれた、会社には本当に感謝しています。原作権を獲りに行った時から現社長の吉村文雄に相談していて、東映はモノづくりの最高の環境を整えてくれました。
――アニメ「チェンソーマン」は制作会社のMAPPAが100%出資して話題になりましたが、ファンとしては大きな安心材料になるぶん、ビジネスとしてはリスクを背負いますよね。実写化チームの覚悟の表れかと思いますし、作品クオリティに対する大きな説得力になっているように感じます。
●「コマから音楽が流れてくる」原作をドラマ・映画化するため、「音楽」へのこだわりは? B小町が現実にいるプロモ戦略、劇中曲のYOASOBIとの関連。
――本作の特徴のひとつとして、まるでB小町が現実に存在するかのようなプロモーション展開をされています。撮影段階から決まっていないと、映像・画像素材の確保が難しいのではないかと思いましたが、早期から構想されていたのでしょうか。
井元プロデューサー:最初に原作を読んだときに、コマから音楽が流れてくる感覚があったことをよく覚えています。なので、ドラマ・映画で音楽も頑張りたいと思っていました。
まだアニメ第一期の放送前の段階から実写化は動いていました。「B小町を本当にアイドルとしてプロデュースしたい」と考えていたので、となると、まずは楽曲が大切だなと。B小町が歌う楽曲は「YOASOBI」のプロデューサーであるソニー・ミュージックエンタテインメントの屋代陽平さんと山本秀哉さんに相談したんです。
屋代さんと山本さんは私の業界同期で、監督を決める前から声をかけていました。「B小町用の楽曲をマジで作ってくれないか」と相談したら、「ちょうどいまアニメに向けて楽曲(『アイドル』)を作っているよ」と言われ、「ちょうどよかった!」と(笑)。
彼らにとって劇中のアイドルユニットの曲を書き下ろすのは初めてで、苦労させてしまったかもしれませんが、真摯に向き合って素晴らしい曲を作ってくれました。その間、彼らと「アイドル」はご存知の通り、爆発的にヒットしていきましたね。
――まさかのYOASOBIつながりもあったのですね。
音楽が出来たので、次は劇中の宮崎編でのMV制作です。松本花奈監督に「本当にMV全編を作って下さい、このMV自体が作品になるように撮ってください」とお願いしました。
B小町のファーストステージのシーンも、「ライブ映像として撮ってください」とスミス監督にお願いして、その撮っていただいた素材をYouTubeにアップしたり、全部を余すことなく表現しています。
――「実写化を待望していない人」にも納得してもらうために、そうした音楽や映像をしっかりつくり、活用することが重要だったのでしょうか?
そうですね、音楽が映像に与える価値が本当に重要だと考えていました。例えば映画「世界の中心で、愛を叫ぶ」が好きですが、主題歌の「瞳をとじて」も強く記憶に残っています。「ソラニン」も然りです。
となると【推しの子】のドラマ&映画に興味のない人たちが、もしかしたらB小町の曲で惹かれてくれたり、「YouTube本気でやってる、意外とキャラちゃんとしてるかも?」と観てくれたりするんじゃないかと考えました。
また、仕掛けをたくさん用意できる作品だったので、制作期間中もずっと宣伝のことを考えて、同期の宣伝プロデューサー・寺嶋将吾に「これをやりたい、あれをやりたい」とリクエストしまくっていました。たとえば「MEMちょがB小町に勧誘された瞬間のショットを絶対に写真で押さえてほしい。撮影止めてでもいいから。原作ファンの方が見比べて“ちゃんと表現されている!”と思ってくれたら最高だから」と伝えていました。
一方で、これだけ本物のアイドルとして頑張ってくれているB小町の集大成ってなんだろう、と考えています。宣伝チームが懸命に動いてくれているので、このあと彼女たちが輝けるステージを皆さんにお知らせ出来たら、これ以上ない喜びです。
●【推しの子】ドラマ・映画が、原作ファンを失望させない保証はあるか? 12月20日から公開の映画「【推しの子】 The Final Act」には、仕掛けがまだまだ用意されている…?
――原作の最後まで描くということは、未発表のキャスト含めて、映画の公開に向けた仕掛けはまだまだありますよね? さらに楽しみになる情報を教えてください。
井元プロデューサー:現段階では「ルビーがアイのお墓を訪ねるシーンがある」としか言えませんが、ファンの方にはこれで察しが付くのではないかと思います。
――最後になりますが……一番聞きたかったことを。実写化が原作ファンの失望を買うことは往々にしてあるかと思います。今回の【推しの子】がそうはならない保証は、どういったところにあるとお考えですか? 改めてお聞かせください。
今日お伝えしたことがリアルなので、こうした姿勢で作ったものを観てください、に尽きます。宣伝もそうですが、最後の判断はお客さんにしていただくものだと思っています。
プロデューサーは「面白いものが出来ました!」と言いがちですが、私はそれが押し売りのように感じて苦手で……。「とにかく全力で向き合った結果、こういう作品が出来ました。面白いかどうかの判断は皆さん一人ひとりにお任せしたいです」というスタンスです。
私たちは、ファン代表ではありません。ファンにも色々な形がありますから、そこで争いたくないんです。ただ、大好きな作品の原作権を委ねてもらった嬉しさだけでここまで突き進んできました。純粋に【推しの子】という作品が大好きなだけなんです。漫画も、アニメも大好きです。2.5次元の舞台も楽しみにしています。
正直に言ってしまうと、楽しかったのは原作権をいただいた当日だけで、そこからは苦しみやプレッシャーと闘う日々ではありました。制作発表にあたって書かせていただいたコメントに「初めて原作を読んだ日のように『【推しの子】のいちファンに戻れたら』と幻想してしまうことすらあります」と書きましたが、そうした気持ちはあります。
しかし、大好きな作品のプロデュースを務めさせてもらえるなんて、こんなありがたいことないです。だからこそ、とにかくやりきりました。一人でも多くの方に届いてくれることを祈っています。
【記事のまとめ】
以上、井元プロデューサーのインタビューを、1時間にわたり聞いた話題の“ほぼすべて”を掲載する大ボリュームでお届けした。
井元プロデューサーの言葉通り、本作をどう判断するかは、最終的には“あなた”次第だ。しかし、少なくとも彼と相対した我々は、キャスト・スタッフの原作愛とリスペクト、そして本気度がビシビシと伝わってきて、ファンとしては「大丈夫なのか?」から「最後まで見届けてみよう」へと考えが大きく変わった。
映画「【推しの子】 The Final Act」は、12月20日から公開。物語のフィナーレは、ぜひ映画館で目撃してほしい。
・記事のトピックまとめ
東映が100%出資し、プロデューサーがクリエイティブ面では実質、ワンオペで製作。原作好きが会社をフルに使い、“原作好きとして純粋に観たいもの”をつくった、というプロジェクトでもある。
井元プロデューサーは原作のコマとセリフをほぼ記憶しているくらいの原作好き。
ドラマ・映画の物語は、最初からクライマックスまで描いている。
原作の赤坂アカ先生&横槍メンゴ先生の協力を得て、製作が進行。原作者2人からは「面白ければOKです」「本当に再現度が高い」「すごく楽しみにしています」
“キャラ解釈を深めること”が大きなテーマに。原作好きのキャスト・スタッフが集い、入念な考察とディスカッションの末、シーンや芝居、さまざまな技術でキャラへ注ぐ愛情を表現し続けた。原作のセリフ「展開を変えるのはいいけどキャラを変えるのは無礼じゃないですか」。
キャスティングでは「原作好き」はもちろん、“キャストの経験とキャラクターが重なる”ことを重要視。例えば、アイ役の齋藤飛鳥は「トップアイドルへ上り詰めた説得力」など。
“大人の事情でキャスティング”を一切排し、原作好きとして理想と思うキャスティングが実現できた。
「実写化を待望していない人」にも納得してもらうため、音楽の力も重要だった。B小町の楽曲はYOASOBIとの関連も深い。
映画「【推しの子】 The Final Act」に「ルビーがアイのお墓を訪ねるシーン」があり、これから特大の情報が続々と明らかに……。
井元プロデューサー「とにかく【推しの子】が大好きです。一人でも多くの方に届いてくれることを祈っています」
<了>