劇場公開日 2024年12月20日

「ドラマ編と合わせて観るのが必須のコンテンツ」【推しの子】 The Final Act 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ドラマ編と合わせて観るのが必須のコンテンツ

2025年4月19日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

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連続ドラマの劇場版であれ、映画シリーズの2作目以降であれ、それまでのストーリーを知らずとも単体の映画として楽しめる良作、好作はもちろんある。だがこの「【推しの子】 The Final Act」については、実写化プロジェクトの企画段階でドラマと映画のストーリー上の振り分けが明確に決まっていたようで、物語の時系列では映画前半→ドラマ全8話→映画後半という順で構成されている(若干重複する部分はあるが)。だからもし、原作漫画もドラマも未見のまま劇場で鑑賞してしまった人は、起承転結のうち承・転の大部分をすっ飛ばされて後半に突入することになり、相当もどかしかったのではないか。

昨年12月に劇場公開された本作の配信がこのほどPrime Videoで始まった。もしドラマも映画もこれから観るという方がいるなら、基本はドラマ→映画の順が妥当だが、どちらも配信で観ることを前提とすれば、先に示した映画前半→ドラマ全8話→映画後半の順もありだろう。

漫画は未読、アニメとドラマは観たうえでのレビューになるが、前半の出来はかなり良いと感じた。語り口はスムーズで、医師・吾郎(成田凌)と幼い患者・さりな(稲垣来泉)のやり取りも泣かせる。アイ役を一度は断ったという齋藤飛鳥は、演技もさることながらステージパフォーマンスが説得力十分。日本のトップアイドルグループの1つである乃木坂46の元メンバーで、シングル表題曲センター回数が西野七瀬に次ぐ2位タイという実績からくる貫禄が感じられた。

だが後半になると語りのスムーズさが失われ、もたつくところもあれば、逆にダイジェスト的に駆け足になったり。アクア(櫻井海音)がアイを殺した犯人へ復讐する手段として、アイの人生の真実に迫る劇映画の製作を主導するのだけれど、1時間ちょっとの尺しかない割に決済のハンコがどうとか割とどうでもいいショットがちょこちょこ入るし、何やら映画作りの映画を見せられている気にさえなる。逆に、アクアとルビー(齊藤なぎさ)が互いの前世を知るまでの過程や、前世からの深い縁に気づいた驚きと感動といった描写が薄くて、そういう部分こそもっと丁寧に描けばいいのに、と。

それと、新生B小町のメンバーになる3人について、かつて天才子役と呼ばれた女優かな(原菜乃華)、人気YouTuberのMEMちょ(あの)に比べ、最もアイドル然としているべきルビーなのに、=LOVEの元メンバーである齊藤なぎさの演技力も知名度も、残念ながら原菜乃華とあの、さらにはもう一人の重要な女性キャラクターである女優のあかねを演じた茅島みずきのレベルに届いていないのも難点(もちろん知名度に関しては、アイドル界隈に詳しい層にとってではなく、映画やドラマを日常的に観る層にとってという意味で)。滑舌の悪さが気になる台詞がいくつか。原作やアニメのキャラクターデザインにもあまり似ていない気がするし(その点でかな役・原菜乃華の再現度は見事)、齋藤飛鳥から生まれた娘、という想像をしてもなにか違うような。

じゃあルビー役のキャストは誰がよかったのか、と妄想してみる。アイドル経験者で考えるなら、アンジュルムの上國料萌衣はかなりいい線いったのでは。ステージやYouTubeでソロ曲を披露するほど歌唱力が高く、齋藤飛鳥とも顔のタイプが近い気がする。恋愛バラエティ「あざとくて何が悪いの?」内のドラマ仕立てのカラオケ歌唱でも、表現力の高さと演技力のポテンシャルを感じさせた。だがいかんせん現役メンバーゆえ、単発の映画ならまだしも連続ドラマも合わせた撮影スケジュールは無理だったろうか。今年6月に卒業が決まっているそうだが、もし1年以上早く卒業していたら有力候補に挙がっていたかもしれない。

ルビー役の妄想ついでに、元アイドルの20代半ばの女優で知名度の高さでいえば、橋本環奈が起用される可能性もあったのではないかと想像するが、朝ドラ主演作「おむすび」が惨敗したことを知る今となっては、彼女が選ばれなくて結果オーライだった。

余談が長くなって申し訳ない。アニメ版の第3期が2026年に放送予定だそうで、気長に待ちたい。

高森 郁哉