「アニメは推しになれたが、この実写映画は推しになれなかった」【推しの子】 The Final Act 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
アニメは推しになれたが、この実写映画は推しになれなかった
Netflixが見れるようになってから、ちょいちょいアニメシリーズを見るようになった。(ついでにドラマシリーズも。今年は何と言っても『地面師たち』と『極悪女王』。『イカゲーム2』も楽しみ)
一気見出来るのが有難い。『鬼滅の刃』『進撃の巨人』もそれで。
今年になってから見たのは、『葬送のフリーレン』『薬屋のひとりごと』、そして『推しの子』。これら新シリーズも楽しみ。
どれも甲乙付け難いほど面白かったが、中でもオリジナリティーあったのは『推しの子』。
地方都市の病院の産婦人科医のゴロー。研修医時代に会い亡くなった患者の少女・さりなの影響で、アイドルグループ“B小町”のセンター、アイの大ファン。
そんなゴローの前に患者としてやって来たのは、アイ。しかも、妊娠していた…!
ショックを受けるゴローだが、産む事を決めたアイの力に。
出産が近付く中、病院付近で不審者が。
見つけ、捕まえようとしたゴローだが、返り討ちに遭い、崖から落ち、死に…生まれ変わった。
アイの子供として…!
一体何処からこんなアイデアが…?
前世の記憶あり。だから赤ちゃんが冷静沈着に喋る。
アイは双子を出産。ゴローは“兄”で、どうやら“妹”も誰かの生まれ変わり。すぐに分かる事だが、ゴローがアイ推しのきっかけになったさりな。ゴローは途中で気付くが、さりなは知らず…。
ゴローは“アクア”、さりなは“ルビー”、推しのアイドルの子として転生した人生をエンジョイしようとしたが…。
子供を産んだ事は秘密。父親も誰だか秘密。アイドル業と母親業に奮闘するアイ。月日は流れ…。
念願の東京ドーム公演を控えたある日、アイは家を突き止めたファンの男に刺される。まだ幼いアクアの目の前で…。
子供たちに愛を伝え、絶命…。
ファンタスティック・コメディとキラキラアイドル・アニメかと思ったら、衝撃のサスペンス展開。
てっきりアイが主人公だと思っていたので、プロローグでいきなり死んでこれも驚いた。
目の前で母親=推しのアイドルを殺されたアクアは復讐を誓う。
成長し、芸能界へ。アイを殺したファンの男は先導されただけで、真犯人が。おそらく、アイがいた“世界”、アイに近い者と推測。個性派監督に見出だされ、俳優として開花していく。
ルビーも芸能界へ。母親のようなアイドルを目指す。さりな時代からの夢でもあった。
それぞれ目指す夢と目的。一方はピュアにアイドルを、一方は冷徹なまでに復讐を…。
ここからが『推しの子』の本筋と言えよう。
輪廻転生。
アイドル事情。
芸能界のあれこれ。
サスペンス。
ラブコメ。
そして大きな“愛”の存在…。
様々なジャンルをただごった煮にしたのではなく、巧みにまとめられ、脱帽。
アニメシリーズはいよいよ佳境を迎える第2期が終わった所。
次期にも期待が膨らむ中、噂ではなかった。まさかの実写化…!
そのニュースを聞いた時から、ビジュアルが公表された時から、賛否両論。
まあ、無理もない。それほどもうイメージが定着しているのだから。
私も最初は「え~っ…」と思った。と同時に、どう実写化されたか気にもなり…。
Prime Videoの配信ドラマシリーズ。
私はPrime Videoが見れない(と言うか、何故か何べんやっても登録出来ない)ので、見れない。
が、ドラマの“その後”が映画に。
私はあまりこういうパターンが好きじゃない。ドラマを見てないと話についていけない。
だけど、アニメシリーズを見ていたので今回は例外。
話的にはちょうどアニメ第2期の終わった所。つまり、その続きを実写で見る事になった訳だが…、
アニメで続きを楽しみにしていた者としては、メッチャネタバレやん!
いや、Wikipediaでついつい調べちゃって、その後の展開や真犯人もさらりと知っちゃっていたのだけれど…、出来ればアニメでじっくり見たかった…。
この実写映画が素晴らしい出来だったらまだ良かったんだけど…。
ドラマの続き、原作でもクライマックス突入となる“映画編”が主軸に。
これが2時間かけて描かれるのかと思ったら、前半をたっぷりプロローグに尺を使い、“間”をすっ飛ばして、“映画編”へ。
この“間”も、かなやあかねとの出会い。アクアを巡る三角関係。
ルビーは“新生B小町”としてデビュー。
アクアは俳優として、少女コミックの実写ドラマ化、恋愛リアリティー番組、2・5次元舞台に出演。
苦悩、現実社会にもあったSNS誹謗中傷、芸能界の闇…。成長や飛躍。アクアやルビーやかなやあかねらたくさんの登場人物が織り成す群像劇としてとても見応えあったのだが…。
それらは配信ドラマで。導入部とクライマックスを映画でやって、初見の人でも見れる作りにしたのだろうけど…。
何か、アンバランス。
真犯人(敢えて名前伏せる)もぽっと出感。どうやってアクアは真犯人に辿り着いたかも映画では描かれていないので、スリルもカタルシスも盛り上がらない。
真犯人はフルネームで呼ばれてすらいなかったような…? 全くの初心者だったら思うだろう。誰…?
そもそも映画のこの構成自体、『推しの子』全くの初心者が見て分かるのだろうか…?
私はアニメシリーズを見ていたからついていけたが、いつもながら見ていなかったら全く分からなかっただろう。と言うか、映画自体わざわざ観に行ってないか…。
アイ役のオファーを一度は辞退したという齋藤飛鳥。誰が演じても賛否両論になる“完全無欠のアイドル”を、魅力と印象充分に演じていたと思う。ちょっと推しになりそうになった。
成田凌はハマっていたが、櫻井海音はちょっとクールさとミステリアスさに欠けた。
齊藤なぎさも悪くなく。Wサイトウは元アイドルでもあり、さすがのアイドルオーラ全開。
旧B小町、新生B小町、それぞれの楽曲や主題歌もいい。
が、かな=原菜乃華やあかね=茅島みずきに全く出番や見せ場ナシ。
元アイドルのWサイトウや子役出身の原菜乃華ら比較的イメージに近いキャスティングなのだが、金髪姿の“彼”は年齢的に見て合っているのかどうか…。
よって、話やキャラを限定してしまった為、本来は最重要エピソードである筈なのに、駆け足気味となり、作品全体がダイジェスト風にもなってしまった。
“今日あま編”や“2・5次元舞台編”でコミックを実写化する難しさや、作者・作り手・演者らの作品に懸ける熱意を描き、唸らされた。
さらに“今日あま編”で作者やファンの大事な原作が金儲けの為に凡作実写にされ、それが皮肉にしか思えない。
アニメは推しになれたが、この実写映画は推しになれなかった。