「どこまでいっても寄る辺のない心の迷宮」顔を捨てた男 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
どこまでいっても寄る辺のない心の迷宮
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本作でオズワルドを演じているアダム・ピアソンが主演した監督の前作『Chained for Life』が日本で観られないがとても残念なのだが、アダム・ピアソンで繋がった姉妹編、もしくは精神的続編と呼ぶべき関係性にあって興味深い。ただ、前作がルッキズムから逃れられない価値観や社会がテーマだったのに対して、本作はもっと主観的なアイデンティティーの話になっている。極論すれば、本作の主人公やオズワルドの外見は果たして本当にその通りなのかすら疑わしく、実際、なにかしら疾患がありはするのだろうが、周囲の人たちもさして強烈に反応はしていない。つまり全シーンが「主人公の脳内で見えているもの」というフィルターを通す必要があり、平たく言えば人間はどんな姿や性格や能力を持っていようと、主観と自己評価がすべてという解釈もできる(もちろんそれだけの話ではないが)。劇中で憧憬の対象となるオズワルドのキャラも、客観的に見ればずいぶん無神経でいい加減な人物でもあって、羨ましいという感情も突き詰めれば自分の写し絵で、実態はない。どこまでいっても寄る辺のない心の迷宮。一度迷い込んだら出口はない。そんな怖さがみごとに映像に置き換えられている。
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