五香宮の猫のレビュー・感想・評価
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何かを訴えようとしないスタンスから見えてくる眩しい世界
桜が咲き、夏が来てそして季節は巡り、また桜の季節がやってくる。大きな事件は起こらないしとりたてて聖人も悪人もいない。瀬戸内の田舎町の神社を巡る人と猫を自然体に、定点観測のように写していく。 ドキュメンタリー映画は作り手の主張が色濃いものもあるがこの作品はあえてそこを排除していてそこがドキュメンタリーの本質だと感じる。この場面をとりたいという欲を排除し誠実に寄り添いながらも、巡る季節、巡る年月が描かれ語られ、ありふれた暮らしにあるものが見えてくる。 ドラマや本などで凶悪犯の背景をみてやるせない感情を抱くことがある。ニュースで見聞きするなら抱くことがない感情。世界はそんなことに満ちていて、自分の行動範囲で見える事象には限りがある。この作品で、地域を、人々や猫たちを眺めることは手がかりをもらえたみたいな感触に近い。よく知ることで断罪も判断も容易じゃないと気づきニヒリスティックになる面もある。でも手がかりなくしては、というのも確かだから。 観察スタイルに乗っかり、それぞれがいろいろなものに思いを巡らせることができる作品だと思う。氏子たちが神社を守る姿、子どもたちの表情、牛窓のありふれた光景がやけに眩しくみえた。世界はそういうもので溢れていてほしいよね?
非常に良かったです
観察10作目ですか─。全部見ていませんが、結構見てます。中でも、港町はかなり好きで、そういったところからも今回の作品も良かったと感じたのかもしれません。 港町は何かの合間に撮影していたということを見聞きした覚えがあります。その割には映像そのものが素晴らしくて、撮っている事柄の意味とか意義が気迫だったにもかかわらず見入った記憶があります。 今回のこれは別にその続きでもないのでしょうが、被写体の猫を中心にめぐる出来事や問題が浮き彫りになっていて、なかなか濃い内容だったかと─。といっても、あくまで猫が主役なので、そのビジュアルだけでも見ていて飽きません。しかも、しっかりと猫模様も捉えていたので、さすが根ざした取材力、感服いたしました。 想田監督の観察ドキュメンタリーは、結構ハードルが高いと個人的には思うのですが、この作品から始めれば、ハマりやすいのかもしれません。
観察映画・・
素に近い映像に強烈な眠気を誘われましたが、なんかやりきれない思いが残りました。保護猫活動をしている女性と監督以外は皆高齢。言葉もたどたどしいし、保護猫についても意見は分かれている。罠にかかって変な声で鳴くネコたちは、ちょっとユーモラスで哀愁あるけれど、最後また誰かが子ネコを捨てていった。サクラネコたちは今後どうなるのだろう、何匹も追悼や行方不明が居て虚しい気持ちになりました。
わざわざ映画館に足を運んで観るかはあなた次第
想田監督の観察映画ほぼみてます。本作も安定した 作品で文句のつけようが無いのですが、野良猫をめぐる神社近郊の善良な住民と神社周辺に訪れる悪意の無い猫目当ての観光客や釣り客達と瀬戸内海の風景のテーマならば、テレビのNHK72時間とかでも問題なく放送できるような素材で、電車乗って映画館で入場料払ってスクリーンで観るのは、テレビやネットでは見れないものを見たくて足を運ぶのですが、その点については期待外れでした。毎作品ギミックや演出を極力排して編集されて、日常を切り取っている裏には結構重いテーマや新しい視点などがみれたのですが、本作には個人的にあまりそのようなものが見れなかったです。
「お魚くわえたドラ猫」実写版
映画冒頭、集音マイクに抱きつきながら、マイクカバーのスポンジをむしゃむしゃ食べようとする猫が可愛すぎて、映画開始数秒でノックアウト。 一部の人が野良猫に餌を与え続けた結果、町中猫だらけで、序盤はそんな野良猫たちの生態を観察するような作り。 映画を観ながらずっと、顔がにんまりしていた自覚あり。 野良猫が釣り人の魚をくわえて持ち逃げしていく場面は、リアル『サザエさん』。 すぐに食べるわけではなく、そのまま魚をくわえたままどっかに行ってしまったと思ったら、思いもよらない行動に心がほっこり。 魚が置いてあるトラックの荷台に、脅威の跳躍力で忍び込むことに成功する猫に驚愕。 君たち、いったいどこにそんな身体能力、隠し持っていたんだ。 釣りをしている人の足元で、猫が突然ゴロニャーンと寝転び始めて可愛さアピール。 あざとくてけしからんですなあ。 そんなわけで、とにかく序盤は猫にメロメロ。 猫の映像でのぼせ上がっていたら突然、住民による野良猫捕獲作戦が開始され、平穏な空気が一変。 檻に閉じ込められて暴れ回る猫の、今まで聞いたことがない断末魔の叫び。 YouTubeの猫動画では絶対に観ることがないであろう、ショッキングな映像の数々。 この時点ですっかり猫に洗脳されている身としては、人間側に敵意しか感じなかった。 糞の被害が大変なのはわかりますが、どうにか上手く猫と共存できないものか、と思って観ていたら、幼い女の子が同じようなことを言っていて、「だよねー」と思った。 中盤からは猫の出番が激減。 代わりに描かれるものは、限界集落の人々の生活。 「猫観察映画」から「高齢者観察映画」にチェンジ。 高齢者の話を聞かされる場面が多く、正直退屈だった。 「そんなことより早く猫を見せてくれ」と思っている自分は、釣り人に近寄って魚を欲しがる野良猫と変わらない。 台風の日、とある猫の行動がドラマチックすぎて、まるで映画のワンシーン。 心許した相手の前で見せる野良猫の寝姿が、破壊力抜群。 猫を葬る場面。 こちらはこの映画を100分以上観続けた結果、猫に思い入れたっぷりの状態。 ここで涙しない人っているのだろうか?
単なる猫ドキュメントではない❗️
文句なし。素晴らしいドキュメント作品。 猫ドキュメントかと思いきや全く違う。 猫と人間の共存関係、地方コミュニティの問題を想田監督流観察映画でまとめた。見事❗️ 色々、考えさせられる作品だった。ラストは 猫ブームに一石を投じた内容と解釈したい。 想田監督作品は2回目だが、想田節健在だった。 2024年ベストドキュメント作品候補に挙げたい。おすすめします。
『世界ネコ歩き』とは一緒に観ない方がいいかも
岡山県瀬戸内市の港町、牛窓にある五香宮神社。
沢山の猫が居着くために猫好きの間で有名な現地に在住する想田監督が、地元の様子や住民の声を独自の視点で丹念に追ったドキュメンタリー映画。
冒頭、近づき過ぎたカメラのマイクにじゃれる猫は、おそらく「ちゃた(茶太?)」。無邪気な様子にほっこりするが、監督宅に押し入ろうとする場面があとで何度か登場する。
2021年に21歳半で死ぬまで自分が飼っていた猫は、以前仕事の関係で住んでいた木更津で保護した猫。
五香宮ほどではないが、猫の多く住む地域で、アパートの廻りには、常時5~6匹かそれ以上の猫が屯ろしていて、その何匹かは一度でも構ってやろうものなら、外出や帰宅を待ち構えては隙を見て「不法侵入」を繰り返す。
作品に登場するちゃたも含め、こういう子たちは間違いなく元飼い猫。扉の向こうに野良猫の生活より快適な空間があることを知っているのだ。
一方、猫を連れて戻ってきた地元京都市は猫好きには厳しい環境。今では野良猫の餌やりに最高五万円の罰金を課す条例が施行されている。
原因は餌をやる側のマナーの悪さ。すべての責任を観光客に押しつけるつもりはないが、同様の事情が作品中でも話題にあがる。
映画『五香宮の猫』は自分にとって経験したり感じたことのあるモチーフで満載。
猫を飼った経験があれば、同様の既視感に見舞われた人も多いはず。
去勢や避妊の手術費用は自治体の援助があるらしいが、五香宮に暮らす数十匹の猫の餌はボランティアの負担。コロナを挟んでキャットフードもかなり値上がりしたのでそれだけでも大変なのに、餌やりを快く思わない住民は「餌をやるんなら糞にも責任を持って」と猫好きの住民に要求する。厳しい意見だが、言ってることは正論。
こんな狭いコミュニティにも存在する猫を巡る意見の相違を、21年に越してきたいわば新参者の想田監督はいろんな行事や集会に参加しながら、どちらかに肩入れも突き放すこともせず、会話の中からそれぞれの想いを丁寧に拾い上げる。
作品終盤に登場する倉敷から来た老カメラマンの意見も卓見。
「有名になって人が集まれば猫を捨てに来る者だって増える」という彼の話どおりのシーンで映画は幕を引くが、同時に死んだ猫が10匹以上にのぼることも紹介(住民に安否を心配されていた猫も含まれているし、死体を埋葬するシーンも)。
ナレーション付きBGM付きのパラダイスのような『岩合光昭の世界ネコ歩き』には描かれない、野良猫の不都合かつ不幸な真実も、想田監督は遠慮なく映し出す。
同じ劇場で公開されていても、本作と『ネコ歩き』を同時に観ないことをお薦めする。
あまりの観点の違いに、『ネコ歩き』で得られる筈の幸福感が減滅してしまう可能性があるので、観るなら日にちをずらして観賞した方がいいかも。
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