「「箱男」・・って、いわゆる怪人by石井岳龍」箱男 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
「箱男」・・って、いわゆる怪人by石井岳龍
石井岳龍は阿川佐和子との対談でキッパリと「自画像です」
とも言っている。
「一瞬して永遠の瞬間を作り上げる・・・それが映画である、とも。
しかし、伝わっただろうか?
映像は実に面白かった。
映像が刺激的でアートだ。
今日日、実験的なこの映画が完成に漕ぎ着け、世界にお披露目される。
とても嬉しいことです。
しかし娯楽性不足とテーマを無理クリ納得させる力技が不足と
感じてしまいました。
時代が求めてる映画と乖離している感が否めないのです。
しかし監督は異端を畏れてはいない。
俺は俺。箱は箱。箱男はお前だ。
段ボールを頭からスッポリ被って、上半身を隠して、
長細い窓(隙間)から、世界を覗き見している奇妙な男。
良くも悪くも《前衛》なのだと思います。
(前衛とは・・・時代に先駆けていること)
なので、1973年に安部公房が「箱男」を発表したときは、
この小説は時代に先駆けていたのだと思います。
しかし2024年の今、この映画から訴えてくるテーマ。
★解説の冒頭を引用します。
『完全な孤立、完全な孤独を得て、
『社会の螺旋から外れた「本物」の存在・・・
『それが「箱男」………………………………………後略』
多分、石井岳龍監督はヌーベルバーグの尻尾をくっ付けている
のだと思う。
箱に住み、世界を覗き世界を見下す。
永瀬正敏は隈取りをしたり、化粧したり、時に素顔だったり。
面白いシーンも多々あります。
段ボールの蟹歩き、
ニセ箱男とのバトルは正に真骨頂のユーモラス!!
箱男が増殖するところ。
永瀬が浅野が佐藤浩市が目だけ覗かせて、言い合いをするシーンや、
そして、なんとラストに、箱男は30個位に増殖する。
しかし箱男は無力だけれど、段ボールの世界では自由だ。
映像は黒白とカラーを混ぜて、そこに墨絵を足したような色味で、
ザラついた画面はトンガった角と線で出来ている。
実にアートだ。
シーン・1シーンを切り取ると絵画である。
その中で、
丸いのは葉子の裸身だけ。
やはり27年前の企画だなぁ、とは思う。
27年の石井岳龍監督は40歳だし、
永瀬正敏は30歳。佐藤浩市は36歳だ。
やはりその年齢の彼等で観たかった。
特にドイツでクランクアップの日に、「中止」
その知らせを受けて永瀬正敏は東京に帰ってすぐ入院して点滴を3日間
受けたほどショックだったという。
27年前の永瀬正敏にはの若さや無謀があったと思う。監督にも。
そうだ、無謀さが足りないのだ。
2024年になってもウイスキーのような熟成せずに、。
なんとも青臭い石井岳龍だ。
完全な孤独、
完全な孤立、
あまりにも丈夫で壊れない《箱》と《箱男》
暗くて陰気な永瀬正敏の《箱男》
それは鬱屈を抱えているから、当然かもしれない。
それに憧れて《ニセ箱男》になる浅野忠信。
ユーモアたっぷりで茶目っ気のある浅野忠信の《ニセ箱男》
は魅力的だ。
《箱男》と《ニセ箱男》のバトル。
実に面白い。
《補足》
診療所がある。
軍医(佐藤浩市)がシャッターで仕切られた地下に、
半分死にかけて暮らしている。
診療はニセ医者(浅野忠信)が行う。
看護師の葉子(白本彩奈)がいて、軍医の性処理を
担っている。
佐藤浩市が老獪でいい味を出している。
この映画は幻想と現実が交差し、その世界は捻れている。
看護師の葉子(白本彩奈)の存在だけが、瑞々しく色っぽい。
石井岳龍は葉子を美しく撮った。
女優をこんなにも美しく撮る石井岳龍は優しい、優しすぎる。
「蜜のあわれ」でも二階堂ふみが、本当に色っぽくて可愛いかった。
金魚の化身だったが、(この映画大好きだ)
葉子の白本彩奈は、魅力的過ぎて、良し悪し、だった。
美しい、あまりに美しいヌード。
スラリリと伸びて程よくふくらみ健康で影がない。
葉子の存在そのもの生命力に、箱男は惨敗。
白旗を上げるしかない。
葉子は、箱男、ニセ箱男、軍医・・・の中で唯一固有名詞がある。
渋川清彦は、なんだろう。
右翼?左翼?応援団長?
彼も破壊的かつエネルギッシュで魅力的だった。
箱男が一目でメロメロになる葉子。
美しさの功罪か?
葉子の存在は「蜜」であり「眼福」だが、
「箱男」の存在理由を弱めてしまった。
この映画に真に足りないのは、渋川のように無鉄砲さと
エネルギー。
永瀬正敏は真面目に考え過ぎたと思う。
もっとやけっぱちの開き直りで演じたら
どうだったろう。
永瀬に世界の不条理を感じる。
しかし世界の広がりを感じない。
それは演出と脚本の罪か?
音楽は不協和音が不快感と歪を増幅する。
ラストの箱男のひと言。
「箱男はあなたです」
これが言いたかったことだとしたら、
画一的であり、惜しい‼️
パンチの効いたラストが欲しかった‼️
箱男の小窓と、スクリーンサイズの比率の一致には、「アッ」と声が出そうになるほど驚かされましたが、ラストのセリフは、自分もダメ押し感を感じてしまい、ちょっと残念に思いました。