劇場公開日 2025年1月3日

「とにかく悪い奴を片っ端からぶっ潰して終わりという単純明快、スカッとする作品なのです。」ビーキーパー 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5とにかく悪い奴を片っ端からぶっ潰して終わりという単純明快、スカッとする作品なのです。

2025年1月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

 ジェイソン・ステイサムと「スーサイド・スクワッド」のデビッド・エアー監督がタッグを組んだリベンジアクション。

●ストーリー
アメリカの片田舎で養蜂家(ビーキーパー)として隠遁生活を送る謎めいた男アダム・クレイ(ジェイソン・ステイサム)。納屋を貸してくれている大家の老婦人エロイーズ・パーカー(フィリシア・ラシャド)は、クレイに唯一優しく接してくれるかけがえのない隣人でした。
 ある日、エロイーズのパソコンの画面に警告の文字と電話番号が映し出されます。電話をかけてみるとセキュリティソフトの会社に繋がり、エロイーズは相手の言うがままにパスワードを入力してしまいます。するとその瞬間に、自身が関わる慈善事業の資金や年金などの個人資産など200万ドル以上を盗まれてしまいます。
 絶望したエロイーズは自殺。娘でFBI捜査官のヴェローナ・パーカー(エミー・レイヴァー=ランプマン)は悲しみ、真相究明を誓うのでした。
 怒りに燃えるクレイは、社会の害悪を排除するべく立ちあがります。世界最強の秘密組織「ビーキーパー」に所属していた過去を持つ彼は、独自の情報網を駆使して詐欺グループのアジトを突き止め、単身乗り込んだ末にビルごと爆破。その後も怒とうの勢いで事件の黒幕に迫り、事態はFBIやCIA、傭兵部隊や元同業者まで入り乱れる激しい闘争へ。その先に立ちはだかるのは、この国では絶対に誰も手が出せない最高権力の影でした。それでもクレイは何も恐れず前進し、社会の秩序を破壊する害虫どもを完膚なきまでに駆除し続けます、ついに、彼が辿り着いた最大の“悪の巣”とは――?

●解説
 これまで犯罪組織、 悪徳警官、巨大ザメなど数々の強敵と戦ってきた ジェイソン・ステイサム。今回立ち向かうのは、弱者から金をだまし取る 地上最悪の組織的詐欺集団。
 その詐欺集団に 全財産をだまし取られた恩人の復讐のため、そして世界の秩序を守るため、怒りの炎を燃やす “ビーキーパー(養蜂家)”が、スクリーン狭しと暴れまわる! というもの。
 本作ではステイサムは製作側にも名を連ねており、ステイサムのワンマンショーといって過言でないほどの活躍シーンがオンパレードととなっていて、ステイサムファンにとっては、大満足の作品です。
 けれどもストーリー重視の一般の映画ファンにとって、余りにステイサムがスーパーヒーローに祭り上げられている展開にはちょっと疑問に感じられるのかもしれません。
 何しろどんなに大勢の敵に囲まれても、ひとりで片っ端からやっつけてしまうのです。しかも主人公の襲来を把握しているFBIの厳重な包囲網も正面から堂々突破し、同じく待ち構える詐欺拠点の面々に対峙し、拠点をたやくすく放火してしまうなんて、現実社会ではあり得ないことです。

 またこの手の元スパイによる勧善懲悪ストーリーにに欠かせないのが、人間ドラマです。でも本作でクレイがなぜ“ビーキーパー"を引退したのか、余り語られません。なので恩人たる大家さんを自殺に追い込んだ詐欺集団に対して、正義のナタを振りかざすクレイのなぜそこまで正義に奮い立つのか、心情の説得力が余り感じられませんでした。
 とにかく悪い奴を片っ端からぶっ潰して終わりという単純明快、スカッとする作品なのです。

●養蜂家が主人公になり得るアメリカ国民の心情について
 本作では、アメリカの国家と市民が蜂の群れに喩えられています。本作の大統領が女性(女王蜂)という設定もなのも蜂の群れだからこそでしょう。
 養蜂家(ビーキーパー)は、巣箱の管理者です。本作で登場するビーキーパーは、その巣箱を国家に置き換え、国家という巣箱を外側からコントロールできる存在として描かれます。いわば社会システムを超越した存在であり、クレイが現実を超越して無敵に活躍してしまうのも、国家という巣箱を管理しているビーキーパーであるからだという理屈からでしょう。
 現実の養蜂でも女王蜂が老いたり働きが悪かったりすると、働きバチに殺されることも起こり得ます。そこで養蜂家が産卵能力が落ちた女王を交換することになるわけです。
 もしもクレイが詐欺集団をのさばらせている根本の原因が大統領にあると判断したなら、ビーキーパーであるクレイは、当然国家の女王バチの排除に向かうことでしょう。そんな今のアメリカ社会を、ハチ社会になぞらえられたところに本作の原点があります。

 おそらく本作で犠牲になる大家の大家の老婦人エロイーズが詐欺被害に遭うことは、映画の中の特殊なことではなく、アメリカ社会にまん延している問題なのでしょう。さらにこそに経済格差の不満がのしかかります。なのでエロイーズは不満を抱えたアメリカの民衆を代表するメタファーなのです。そんな存在が自殺に追い込まれる詐欺に引っかかるのです。もう民衆は黙っていらません。こんな世の中にした政府が悪いのだと当然思うことでしょう。
 アメリカではイギリスから独立した建国の経緯などから、政府の誤りは民衆が武装蜂起して正さなければならないという思想が色濃くあります。しかし現実には民衆が武装蜂起というわけにはいきません。そこでビーキーパーの登場です。ビーキーパーが自分たちの代わりに国家という巣箱を管理して、外敵である「スズメバチ」を駆除し女王バチを取っ替えてくれたら、溜飲を下げることでしょう。たとえ超法規的な暴力を使ってでもどうにかしてしまうというプロットでも、共感してしまうところに今のアメリカ国民の心情を代弁しているところが大なのです。

流山の小地蔵