「世界は歌う」ポップスが最高に輝いた夜 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
世界は歌う
名曲『ウィ・アー・ザ・ワールド』。
その誕生やレコーディング風景、参加アーティストたちの当時のインタビューや現インタビュー、色褪せぬ名曲の魅力を収めたドキュメンタリー。
音楽に疎い私。洋楽なら尚更。
しかし、そんな私でも知っている。メロディーも自然と。
飢餓に苦しむアフリカの人々の救いになるよう作られたチャリティーソング。
“ライヴエイド”などチャリティーコンサートも有名だが、こちらはたった一夜、ほんの数時間に、錚々たるアーティストが一つのスタジオに集結。
私でさえも集ったアーティストの顔触れには仰天…!
ライオネル・リッチーが呼び掛け。マイケル・ジャクソンと共同で作詞作曲。クインシー・ジョーンズがプロデュース。これだけでもスンゲェ…。
その他、ケニー・ロギンス、シンディ・ローパー、スティーヴィー・ワンダー、ダイアナ・ロス、ティナ・ターナー、ハリー・ベラフォンテ、ビリー・ジョエル、ブルース・スプリングティーン、ベット・ミドラー、ボブ・ディラン、レイ・チャールズ…。俳優ダン・エイクロイドも。
アメリカの音楽界を代表するスーパースター総勢45人。
まさに、ミュージシャンの“アベンジャーズ”!
ライブにツアーに多忙で売れっ子。そんな皆を集めるのはほぼ不可能。
当初は一人一人レコーディングする予定だったが、それだと時間も労力も掛かる。
全員でレコーディングする。そんな事可能なのか…?
可能な一夜があった。
1985年1月28日。アメリカン・ミュージック・アワード。アメリカ最大の音楽賞の一つ。
多くのアーティストたちが集まる。その直後にスタジオに移動してレコーディング。
この名曲の構想や参加アーティストもスゲェが、レコーディングも大胆。
しかし、そうトントン拍子には進まない。
参加と不参加。当初、当時マイケル・ジャクソンと人気を二分するプリンスも参加予定だったが、不参加。
そのプリンスと親しく、説得するよう言われたというシーラE。
それぞれのアーティストたちの複雑な人間関係、事情…。曲を聞くだけでは見えてこない。
豪華メンバーが集い、遂にレコーディング開始。そこでも。
誰がどのパートを歌うか。
それぞれのアーティストの個性、歌い方もあり、レコーディングは難航。
これだけの面子なのに、緊張やプレッシャーも。
ライオネル・リッチーはいい曲を書かねば。各々、いざ対面でのレコーディングで相手に圧倒される。
スーパースターたちも我々と同じなんだなぁ、と。
歌のプロたちがミスも。
時間も限られている。
決して広くはないスタジオに、スタッフも含めると60人~70人以上がぎゅう詰め。
一月とは言え、熱気から来る暑苦しさ。
ピリピリムードも漂ってくる。
無事レコーディング出来るのか…?
そんな場を切り抜けるのもスター。
レコーディング前のボブ・ゲルドフのスピーチ。
ライオネル・リッチーの人間性。
クインシー・ジョーンズの統率力。
ナチュラルなシンディ・ローパー。
ミスをユーモアで和ませるスティーヴィー・ワンダー。
存在感あるブルース・スプリングティーン。
クールなボブ・ディラン。
熱心な慈善活動家で知られるマイケル・ジャクソン。この曲への思いは真摯。
レコーディングは無事終了。感極まったダイアナ・ロスの一言。
アーティストたちの素顔、真剣な歌への向き合い方…。
歌を届ける事でアーティストたちに何が出来るか。支援金は勿論、精神的な支え。
参加アーティストの中には現在すでに故人も多く…。その貴重な(このレコーディング風景すら貴重だが)在りし日の姿。
音楽に疎い私でも、感無量…。
『ウィ・アー・ザ・ワールド』の詞の一節。
僕たちは一つの世界。
当初は黒人アーティストたちがアフリカの同胞たちを救う為に。
そこに白人アーティストたちも参加。男性アーティスト、女性アーティスト問わず。
人種や性別の垣根を越えて。皆、一つになって。
エゴは入り口に置いて。
この曲自体が全てを表している。世界を、我々を。
音楽が世界を一つにする。
誰かが誰かに手を差し伸べる。
世界は一つになれる。
この一つの世界に生きている。
決して理想事や夢見心地じゃない。
それを出来る力や心や愛を我々は持っている。
君と僕とで。あなたと私とで。世界と皆とで。