「火が炎になると手がつけられないように、負の連鎖が重なり始めるとそれを止めることはできなくなる」ビニールハウス Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
火が炎になると手がつけられないように、負の連鎖が重なり始めるとそれを止めることはできなくなる
2024.3.19 字幕 京都シネマ
2022年の韓国映画(100分、G)
ビニールハウスに住む訪問介護士を描くスリラー映画
監督&脚本はイ・ソルヒ
原題は『비닐하우스』、英題は『Greenhouse』で、ともに「ビニールハウス」という意味
物語の舞台はソウル郊外
ビニールハウスに住む訪問介護士のムンジョン(キム・ソヒョン)は、少年院に入っている息子ジョンウ(キム・ガン)と一緒に新居に住むことを夢見ていた
ムンジョンは裕福な老夫婦テガン(ヤン・ジェソン)とファオク(シン・スンヨク)の世話をしていて、テガンは盲目で、ファオクは認知症を患っていた
ファオクはムンジョンを「自分を殺しに来た女」と認識していて、時折スイッチが入っては暴力的になってしまう
ムンジョンには自傷癖があり、医師の勧めからセラピーに通うようになっていた
代表(ファン・ジョンミン)に促されて自分のことを話す参加者だったが、その中の一人スンナム(アン・ソヨ)はムンジョンを気に入って近づいてくる
代表は「彼女には注意して」と促し、過去にスンナムが原因で退会した人がいたことを伝えた
スンナムは先生と呼ぶ男から暴力を受けていて、そこから逃げるためにムンジョンを頼る
彼女はスンナムをビニールハウスに招き入れ、自由に出入りして良いと許可を出した
それから何の問題も起こらなかったのだが、ある日の事件にて、全ての歯車が狂い始めてしまう
映画は、予告編の段階で「ファオクを殺して、自分の母チョンファ(ウォン・ミウォン)を身代わりにする」というところまで暴露されているが、ここに来るまでに結構な時間がかかっている
事件が起きるのは3分の1が過ぎた頃で、それまではムンジョンの背景を丁寧に紐解いていく流れになっている
ムンジョンはテガンの教え子であるギョンイル(ナム・ヨンウ)と肉体関係を持っているのだが、実はこの男が「スンナムが先生と呼ぶ男だった」という回収がなされていく
ムンジョンは「自分の人生に悪影響を与えるなら殺してしまえ」という趣旨のことをスンナムに言ってしまい、彼女はそれを実行してしまう
物語は、ムンジョンがファオクを突き飛ばしたことから破綻する流れを描き、それを隠蔽するために母親を使うことで思わぬ方向へと向かっていく
テガンは物言わぬチョンファが「妻ではない」と気づき始めていて、それらが全てバレる前に、さらなる悲劇の連鎖が起こっていくという流れになっていた
映画のラストは、ビニールハウスに火をつけたムンジョンが振り返ってそれを見るシーンで終わるのだが、一見すると「え? これで終わり?」という感覚は否めない
だが、そこで彼女の表情が少し変わったように見えるので、その炎の中に何があったのかを気づいているように思える
それが何なのかをネタバレするとアレなのだが、それをいつ知るかによって、彼女の絶望というもののスケールは変わってくるように思えた
いずれにせよ、半地下はまだマシというコピーから見られるように、半地下よりもさらに劣悪な環境にいるビニールハウス族をメインに描いている
韓国の田園地帯にはビニールハウスで住む人が集まっているエリアなどがあり、そこに住む人にスポットライトを当てているようにも思えた
だが、そのような社会情勢への言及はほとんどなく、構図として「底辺が上流の生活に紛れ込む」というものが『半地下の家族』とそっくりなので、社会的なメッセージが薄い分、弱いなあと感じた
ムンジョンがビニールハウスに住む経緯がほとんど描かれず、夫との離別理由、息子が少年院に入っている背景などの説明もない
それらの理由がムンジョンにあるのか無いのかでも見方は変わってくるので、そのあたりはさらっとセラピーなどでふれても良かったのでは無いだろうか