「私は夢で人生狂わされた! 悪夢なら醒めて!」ドリーム・シナリオ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
私は夢で人生狂わされた! 悪夢なら醒めて!
夢の中に現れる同じ男。世界中で2000人以上が見たという。
現実世界には存在せず、見たら死ぬという噂も…。
“THIS MAN”と呼ばれる太眉男の都市伝説があった。
本作はその映画化ではないが、影響受けているのは明らか。
夢の中でこの不気味な太眉男と会うのは嫌かもしれないが、我らがニコラス・ケイジとだったら…?
でもでもでも! そのニコケイが…!
シュールでブラックな笑いとスリラーが入り交じるこの不条理劇。プロデューサーに名を連ねてるあの監督とタッグを組んできたあのスタジオの世界観に納得。
大学教授のポール。性格は温厚だが、小心者。家庭では妻子からも空気のような存在で、大学でも講義は居眠りの時間。絵に描いたような“THE平凡”。
ポール風に言わせると、シマウマは一頭では目立つが、群れの中では目立たない。例えが言いたい事は分かるが、よく分からないような…。
そんなポールの人生が激変する奇妙な事が。
見知らぬ人から何処かで会った事があると声を掛けられる。会った事などないが、同じ事を言う人が何人も。周りだけではなく、SNSを通じて世界中で。
会った場所というのが、夢の中。ポールが世界中の人々の夢の中に現れたというのだ。
一体、どういう事…? 理由も原因も全くさっぱり。
ちなみに夢の中のポールは何をする訳でもなく、ただ現れてただ見てくるだけ。今回冴えない風貌で禿げが際立ったニコケイがヌボ~ッと見てくるだけで笑える。
時の人ならぬ“夢の人”となり、TVにも出演。疎遠だった知人たちから声が掛かるようになり、大学でも人気者。
目立たなかった中年男が突然目立つようになり、戸惑いつつも悪い気はしない。
大企業から広告の話、ポールの人生の映画化の話、オバマ元大統領と面会の話…。
平凡な人生から大逆転。まさに、夢のシナリオ!
考えても考えても不思議な話。現実世界でも似たような症例が先述の通りあり、単なる眉唾ものではない。
それにしても一体、どういう原理…?
夢は寝ている時に見る脳の現象であるが、その人そのものや出来事なども少なからず影響する事も。
映画や漫画などのカルチャー、哲学などの題材になり、奥が深い。人類永遠のテーマの一つ。
しかし本作はそんな深遠な作品ではなく、前半はシュールなコメディ。先述もしたけど、冴えないニコケイが夢の中に現れるだけで本当にプププッ(≧▽≦)
時の夢人、ポール! 注目を浴びる事に浮かれ、若い女性からも言い寄られ、真面目そうに見えてお調子者。
アクションヒーローになったり、シリアス熱演を魅せたり、ブチギレ怪演を大パフォーマンスしたり。本作ではコミカルの中にも哀愁を滲ませて。
ニコケイの巧演に唸らされる。再びキャリア復活させてから、劇中さながら夢のシナリオ!
…でも、良い事は長続きしなかった。
有名になり、家に不審者が侵入。
企業とのミーティングで見解の相違。
何やら不穏な影がちらつき始めた中、思いもよらぬ“事件”が夢の中で発生。
ポールが悪事を働く。殺人、暴行、性的加害…。夢の中で。
考えてみるとおかしな話。夢の中のポールがやった事で、現実のポールには一切非はない。
こんなの普通に考えれば分かる事だし、無視してりゃ落ち着くだろうと思っていたら…、
夢の中での被害者はどんどんどんどん増えていく。現実ポールへの非難も増える一方。
顔も見たくない、怖い…との理由で、大学を休む者も。招かれた食事会もキャンセル。オファーの話も白紙に。
皆、よく考えて。夢の中の話だよ?
しかし、それで愚民どもは納得しない。世界中の人々に謝罪しろとまで。
人気者から世界中の嫌われ者に。この急転直下こそ、夢…悪夢に違いない。
見ていてポールが気の毒。祭り上げられて、世界中から叩かれて。
謝罪は絶対しないし、ランチに訪れた店で出ていけと言われても出て行かないし、娘の演劇鑑賞会に来るなと言われても来る。ポールも頑固な所があるが、気持ちは非常に分かる。
もし、自分に同じ事が起きたら…? 誰がそんなバカバカしい事で謝罪するか! ポールと同じく断固拒否やいつもと変わらぬ姿勢を貫き通すだろう。
だって、自分は何も悪くない。が、そんな姿勢がポールの立場をさらに悪くし…。
仕方なく、SNSを通じて謝罪。ところが感情高ぶっちゃって、被害者は私なんだ!
さすがにこの謝罪は…。フジテレビや日テレのようにやらなければ良かった。
世のトレンドとしてバズって、デマ一つでバッシングに晒されて…。俊英クリストファー・ボルグリは、奇妙な設定を通してSNSやデマに踊らされる世の中や人々を痛烈に風刺。第2のアリ・アスターになれそうな逸材。
夢ポールは何故犯罪を…? これも何故ポールが世界中の人々の夢の中に現れたと同じくらい謎。
原因究明はナシ。極限状態になったポールが現実世界で本当に犯罪を…というB級作品に出まくっていた頃のようなバイオレンスや暴走もナシ。
それらを見たかった人には肩透かしかもしれないが、本作はあくまで世の中や人々への風刺と哀れ男の顛末に集中する。
大学で職を追われ…。
いちゃもん付けられ、暴行され…。
ポールにとって一番悲しい出来事は、支えてくれる筈の奥さんや娘たちからも嫌悪され…。家庭崩壊。離婚。
その後も世知辛い。元有名人なのでイベントに招かれるも…。
夢で人生を狂わされた男。“ドリーム・シナリオ”などではなく、“ナイトメア・シナリオ”。
この不条理感、胸くそ悪さ…。
ポールが一人どん底に叩き落とされた頃、世の中や人々は新システムに爆盛り上がり。
大企業がポールの体験を元に開発した“ノリオ”。誰でも自由に他人の夢の中に入れる。
勿論精神的安全は充分に考慮して。ランダムや特定も可。相手は拒否する事も出来る。
出会いや商品アピールも兼ねて。SNSに変わる新時代のツール。
にしても、世の中や人々の関心ってのは…。何だかなぁ…。
ポールを教訓に…と開発されたが、よくよく考えれば怖い事だと思う。
間違いなく、第2第3のポールが世界中で現れるだろう。
夢で人生を狂わされたポールがこの“ノリオ”を使っているという皮肉。
もはや夢の中でしか…。
平凡ながらも穏やかだったあの頃…。愛する家族…。
夢でもし逢えたら…。
見る人を幸せにする夢。見る人に影響を及ぼしかねない悪夢。
たかが夢、されど夢。
いい夢、見たいよね。
こんにちは。いつも「いいね」をありがとうございます。
近大さんのレビューの様に“ノリオ”が出てくるあたりから
正直、見失ってしまって、理解が追いつかなくなってしまいました。
誰かと感想をと思っても、なんせ短出観てる人が周りに居なくて。
近大さんのレビュー面白かったです。