劇場公開日 2024年5月3日

「映像が語るものに圧倒される喜び」無名 glitterさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0映像が語るものに圧倒される喜び

2024年5月8日
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鑑賞方法:映画館、VOD

泣ける

興奮

知的

公開初日から繰り返し観ていますが、この作品の何が好きかというとまず第一に映像美です。
光の使い方とそれが生み出す色彩と陰翳、構図のハマり方がどうしたらいいかわからなくほど好みです。『この瞬間をポスターにしてくれ』と何度も願ってしまう。真珠湾攻撃の報を受け取る場面で、渡部からそれを聞かされる三人の姿なんて、これは絵ですか?と見入ってしまいます。

特に好きなのが鏡の使い方で、ホールでファンを見つめるイエ、その視線に気付いたファン、イエにわからないよう背面の鏡越しにファンを見つめるワンというこの構図が流れるように一枚の画に収まっている感じがたまらなく好きです。
他の場面でも鏡が何度も登場します。鏡の前に立つのが一番多いのがイエでしょうか。何度も観る方には是非ご注目いただきたいところです。

また、大きな見どころであるアクションシーンは息を止めて見入ってしまいます。
本国での配信と韓国版Blu-rayでこれまで何度も観た時にこの場面について抱いていた印象と、今回初めてスクリーンの大画面で観た時の印象が大きく異なった場面でもあります。
この場面、二人の目をよく観ていると、死闘の最中に時折り死闘とは違う色合いが滲みます。これはまだラストまで観ていなかった初回視聴時には感じられなかったことであり、スクリーンの大画面で没入して観ることができる今回初めて気付いたところです。一度観た方も、結末を知った状態で是非この二人の死闘をご覧いただきたいです。

程耳監督は自身で編集も手掛ける監督ですが(第36届金鶏賞では、この『無名』で監督賞と編集賞を同時受賞しています)ちょっと映り込んだ小道具やさりげない仕草にも監督の仕掛けがあり、一度締めたネクタイを外して別のものを選ぶ、にこやかに会話をしながらさりげなく相手から受け取った拳銃の弾丸を数える、求められた酌を無視して寿司を口に運ぶ、ちょっとしたシーンに浮かび上がる登場人物の心情を一つ一つ考えながら観るのが本当に面白いです。

何度も観るうち、フーの笑顔にゾクゾクし、イエの胸の内を慮って一層ヒリヒリするようになっていきます。

何度観ても飽きませんが、この作品が好きだというと『必ずスクリーンで観て!』と勧められてきました。実際にスクリーンで鑑賞してみてその理由を理解しました。この作品、スマホやテレビの画面で観るのと比べスクリーンで観ると桁違いに面白いです。本国の映画ファンが何度も長文レビューを寄せた理由がしみじみわかる気がします。もうすっかり虜です。

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glitter