貴公子 : 映画評論・批評
2024年4月16日更新
2024年4月12日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
キム・ソンホの微笑みが美しく恐ろしい、新たなる韓国アクションノワール
次々と秀作、傑作を生み出し続けている韓国映画界から新たなるアクションノワール「貴公子」が放たれた。「生き残るための3つの取引」や「悪魔を見た」の脚本家として注目を集め、監督として「新しき世界」を世に送り出してから、韓国のノワール映画の名匠としての地位を確立してきたパク・フンジョン監督・脚本の8作目となる新作。運命に翻弄される貧しい青年と、彼の前に現れた謎めいた男“貴公子”を中心に、巨額の遺産を巡って繰り広げられる、生き残りを賭けた壮絶な攻防戦が予測不能な展開で描かれる。
ぺ・スジと共演した「スタートアップ:夢の扉」、シン・ミナと共演した「海街チャチャチャ」のドラマで人気を博したキム・ソンホが映画初出演にして主演を務め、謎めいた男“貴公子”を魅惑的でユーモラスに演じているのが見どころのひとつ。その美しい顔立ちで不適に笑う表情に魅了されるとともに、得体のしれない恐ろしさを感じさせる。ソンホのキラースマイルを最大限に生かした見事なキャスティングだ。そして、これまでの爽やかなイメージを覆し、狙ったターゲットは絶対に逃さない冷酷さと、無駄な動作のない華麗なアクションで、ソンホの俳優としての新たな実力を堪能できる。
数々の象徴的なシーンや印象的な台詞と展開で、韓国犯罪映画の傑作と世界でも高く評価された「新しき世界」。Netflixで2021年に配信された「楽園の夜」のバイオレンス描写も熱く、緊迫感あふれる演出と鮮烈なアクションは本作でさらに磨きがかかり、対立のドラマ、予測できない展開と追跡劇から息つく間もなくクライマックスへなだれ込む。また、重厚な語り口でありながら、ユーモアや愛すべきキャラクターが登場するのもフンジョン作品の魅力で、本作の主要な登場人物たちも存在感を発揮している。
運命に翻弄される貧しい青年マルコ役には、1980倍という競争を勝ち抜いて新人のカン・テジュが抜擢された。窮地に陥るマルコの混乱と恐怖を繊細な感情で表現し、次代を担うニュースターの誕生を予感させる。さらに、巨大財閥の御曹司ハン役を「君だけが知らない」のキム・ガンウが鬼気迫る演技で体現し、美しき弁護士ユンジュ役で「蒼き狼 地果て海尽きるまで」のコ・アラがマルコを怪しく翻弄する。
フンジョン監督は、ユニークな題材と洗練されたアクション、圧倒的なビジュアルで世界に衝撃を与えた「THE WITCH 魔女」シリーズにて韓国アクション映画の新機軸を打ち出してもいる。本作でも迫力のカーチェイスシーンと銃撃戦、格闘が“獣のような生存本能のあがき”というコンセプトで組み立てられ、「追う者と追われる者のギャップから生じる恐怖と絶望を表現した」という。クライマックスにおけるソンホのダンスのような銃撃戦での舞いは必見。その貴公子がマルコにとって果たして味方(天使)なのか、敵(悪魔)なのか、さらに金か、命か、誇りか―という駆け引きと予想を裏切る展開の連続により、ラスト数分の最後の最後まで油断できない。そして物語の結末、心揺さぶる真実が待っている。
(和田隆)
「貴公子」 配信中!
シネマ映画.comで今すぐ見る