「最後の呪縛を破る」アイアンクロー つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
最後の呪縛を破る
小さい頃からお前はこうならなければいけないと育てられ、自身もそれを信じていた場合、知らないうちにそのことに囚われてしまう。医者の息子が将来医者になれと言われ頑張ったりするあれだ。
それなりに優秀なはずなのに医大に合格できず絶望したりする。医者にさえなろうとしなければ他に良い道はいくらでもあったはずなのに、ならなければいけないという呪縛。
この作品におけるフォン・エリック家の呪いとは、父フリッツの言う、プロレスラーになれ、チャンピオンになれ、泣くな、である。
父のそんな言葉に兄弟たちは縛られる。プロレスラーにならなければいけない、チャンピオンを目指さなければいけない、と。
そして、その夢が絶たれた時、あるいは強制されていると気付いた時、生きる希望を見失ってしまう。
主人公ケビンは、おそらく兄弟の中で最もプロレスラーになりたかった男だろうし、最もチャンピオンになりたかった男だろう。
しかし残念ながら彼にはその才覚がなかった。それでも努力し続け、あきらめなかった。
ケビンにとって、プロレスラーになれ、チャンピオンになれは、呪いではなく自分が本心でやりたかったことだから。
ある意味で、チャンスすら回ってこないケビンが最も不憫かもしれない。ただ、まだ終わりじゃないという状態がギリギリ彼をとどまらせる。
そして、他の兄弟の無念を次々と肩に乗せていくことになる。それでも、届かない。
いなくなる兄弟の中で一人残ったケビン。
ラストシーンで、ケビンは泣く。そして、自身の息子たちに泣いていいと抱きしめられる。
ケビンに唯一かかっていた呪いともいえる「泣くな」を破り、彼が最も得たかったであろう愛する家族からの抱擁を得る。
その輪の中に父フリッツが入れなかったことは残念であるが、兄弟との再会は非常に涙を誘う。
彼らは誰もが精一杯生きたように見えたから。
そしてついにケビンは、フォン・エリック家の呪いから本当の意味で解放された。
成功だけが心の解放を達成する手段ではないのだ。
