「アイアンファミリー」アイアンクロー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
アイアンファミリー
私ゃ音楽にも疎ければスポーツにも疎い。
“フォン・エリック”の名はプロレスファンなら知らぬ者はいないのであろうが、私はあまりよく…。
が、“アイアンクロー”は何となく知っていた。相手のこめかみに指を押し立てる技。
その“アイアンクロー”の異名を持つレジェンドプロレスラー、フリッツ・フォン・エリック。
父と同じくプロレスの世界に入った息子たち。
ただの有名プロレス父子の伝記ではなく、家族のドラマとしての要素が強く、“呪われし一族”と呼ばれる所以の家族を襲った悲劇が衝撃でもあった…。
次男ケビン、三男デビット、四男ケリー、五男マイク。
長男ジャックはまだ幼い頃に亡くなり、男兄弟4人、スパルタ父親に鍛えられ、プロレスデビュー。(実際には六男もいるらしいが、作品の都合上五男と併合という形でカットされたとか…)
日本で言うならボクシングの亀田ファミリーみたいなものか。
マイクパフォーマンスが得意な三男、五輪陸上代表だった四男、ミュージシャンを目指していた五男。性格も経歴もバラバラ。実質主役の次男ケビンは優しく、家族思い。
父親にしごかれ、時にプロレスとの向き合いに悩みながらも、妻となる女性との出会い(ベリーキュート! リリー・ジェームズ)、信仰深い母親の支え、兄弟たちとタッグを組み、70年代~80年代のプロレス人気を牽引していくが…。
ザック・エフロンの新境地!
驚異の肉体改造。元々マッチョメンだが、本物に全く見劣りしないレスラー体型。
もはや誰も彼の事をアイドルとは呼ばないだろう。キャリアベスト。堂々たる演技巧者になった。
そんなエフロンら演者たちの肉体から繰り出される圧巻のファイト!
本作はずっと映画化の企画あったらしいが、悲劇的な内容とプロレスシーンの再現の難しさから難航したという。
本物さながら…いや、演者たちにとっては本物なのだ。肉体と肉体のぶつかり合い、ダイナミックな技…。プロレスファンは感涙、でなくともエキサイティング!
実際の兄弟そっくりのヘアスタイルやファッション。監督のこだわりが闘魂だ。
だが、それら以上に胸迫ったのが、家族を襲った悲劇のドラマ。
私はこれを知らなかった。
三男デビットが、日本でのプロレスツアー中に急死。原因は腸の破裂。身体を崩していた描写もあった。
家族は悲しみに暮れるが、これは始まりに過ぎなかった。
不慮の事故で片足を失った四男ケリー。
試合で後遺症を患った五男マイク。
相次いで…。
幼くして亡くなった長男ジャックもだ。
悲劇と不幸と死に見舞われる…。
同じ喪服を着たくない。腹を痛めて産んだ息子たちを相次いで亡くした母親の心痛…。
だが、父親は違う。こんな時でも闘え。
そのプレッシャー。言うまでもなく、“呪い”の張本人。
痛み抑えや身体を奮わす為に使ったのは…。
自業自得でもあり、残酷過ぎる末路でもあり…。
殿堂入りし、伝説的なプロレス一家と称えられる一方、呪われし一族。
そのまま終わったら後味悪かったが、最後に救いがあった。
先に行った兄弟たちが“ある場所”で再会。そこには、長男も…。
残されたケビン。が、決して一人ではない。子供たちが、家族が、いる。
ケビンの子供たちもプロレスラーへ。
その血が身体を流れ、闘魂が燃える。
鉄の家族=アイアンファミリー! 家族でリングに立ち続けるーーー。