劇場公開日 2024年4月5日

「アメリカの悲しみと希望」アイアンクロー MR POPOさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アメリカの悲しみと希望

2024年4月10日
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これまたA24の映画です。
プロレス映画ですが、決して挫折や失敗を乗り越えてついに"勝った!優勝!やったー!"でメインテーマが流れ、感動の涙が止まらないという話ではない。
プロレスと家族を題材にアメリカの男性性や宗教感や価値観の変容を描いてるといった様に私は感じた。
家族の呪いでもあると同時にアメリカの呪いでもある。

いつもは講釈を垂れない様にしてるが今回は垂れ気味に書きます。

まず一昔前の映画を観る時は何となく今の価値観だけでなく当時の価値観を脳の片隅に入れておくといいかもしれない。
例えば親が毒親のように描かれてるかといえば今の価値観でいえばYESで、当時ならNOだろう。今だからこそそれって教育虐待だよって思えるけど、一昔前はその感覚さえなかったわけです。負けと逃げるはあり得なかったから、悲劇的な展開だからこそ批難されただけで成功してれば違って見えるのだろう。
またこの映画の中で男性性の問題を描いていて、日本より自由の国アメリカの方が根強く残ってる。今でさえアリアナグランデの曲を聴いてればゲイ扱いされるし、オシャレしてもゲイ。モテたきゃマッチョで男らしさをアピールすべきと思ってる男性も多い。
その同調圧力も当時なら今とは想像出来ないほど強かっただろう。
それらをプロレスというビジネスで表現しててリングではいかに強く見せるか、それが虚勢だろうと成功すれば正義であり、プロレス(男性社会)では必須でありその強さは日頃の積み重ねが大切だ。だから男は泣いてはダメだし、下を向いても弱音もダメ。
そしてリングに上がる。逃げ場を絶たれたロープ(檻)に囲まれて同じ様に虚勢を張った者同士が本当の強さではなく第三者や運や流れで勝利が決め合う。
今でこそ遺伝で決まる事や成功の再現性の無さなどが理解出来るが、一昔前ならスポ根や24時間戦えますか?の世界だった。タフネスと成功がセットでそれが父親と銃(これもまたアメリカの象徴)で表現されてたのかなと思った。
もう一つ、宗教。敬虔なクリスチャンである母だが、私達日本人からすると信仰してるのになぜ?と思う場面多いが、教義自体が宗教の生まれた時代であり教義がアプデされずに時代の流れとのギャップが生まれて行った時代でもある。
特に自殺はキリスト教において御法度であり天国などありえないし、神様から許されもしない。だから今でも自殺より精神的自殺(ドラッグ依存)を選ぶ人が多い。なのでお母さんさえ涙を堪え息子への気持ちを吐くことさえ出来ず「同じ喪服はイヤ…」という。
また彼女は敬虔なキリスト教信者であると言う事は今話題のトラッドワイフという保守層の女性で、働きに出ず家事をこなし夫を支える。なので男社会に口出しをしないのもその影響であれが当時は一般的だったのだろう。
そういった背景があり、最後の天国の様子を描くというはキリスト教の影響力がアメリカで衰退したからこそ描けるわけで昔の価値観からしたらあり得ないシーンですごくグッときた。
あぁアメリカは変わったなぁと思ったし、息子達の様子を見て涙が流せたのが古きアメリカの呪いが解けた証拠なんだと思った。
唯一の理解者であるパムは新しい価値観の象徴であり、今でいうリベラル層。パムが働いてた事は彼にとっても違う選択肢を選びやすかっただろう。しかしリリージェームスは好きな俳優だからテンション上がったな。本当にかわいい。
パムがどんな時も寄り添い、子どもの面倒を見させてご飯を作らせ、そのおかげで彼は救われ違う道を探し新しい人生を見つけた。最後の沢山の家族に囲まれた写真も兄弟の集合写真も両方とも美しかった。

日本でも男性性の問題は軽視されてる部分や、氷河期の方に見られる自己責任論と助けてと言えない生き方
にも重なるものあるなぁと思った。
悲劇が続くシーンは本当に息が詰まり、友人の訃報を聞くかの様な寂しさとやり場のない共感。
いい作品でした。

ちなみに
カップルで観る◯
こういう話題で少し深い話できそう
家族◯
人によっては微妙な空気になりそう笑
1人◎
A24の映画は1人で観るのが正解なんかもな…

MR POPO