劇場公開日 2024年4月5日

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「予備知識は悪役レスラーの名「鉄の爪フォン・エリック」のみ。それがむしろ良い」アイアンクロー 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0予備知識は悪役レスラーの名「鉄の爪フォン・エリック」のみ。それがむしろ良い

2024年3月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

興奮

子供の頃は毎週のようにテレビでプロレス中継があり、アニメ「タイガーマスク」も人気だったし、昭和のある時期まではプロレスが野球、相撲に次ぐスポーツ分野での国民的娯楽だったように思う。私自身プロレスファンではないが、鉄の爪フォン・エリックという悪役レスラーの名前は憶えていた。本作「アイアンクロー」は、そのように日本でもかつて知られていたフリッツ・フォン・エリックとその息子たちの実話に基づくドラマであり、米国プロレスのファンでもなければそんな一家に起きたことなど知る由もないし、そういった観客こそがこの尋常でない悲劇の連鎖に心が震えるほど驚かされることになる。この話がもし新人脚本家が書いたシナリオだとしたら、「そんな悲劇が家族に立て続けに起きるなんて創作が過ぎてリアリティに欠ける」などと即却下されるレベル。もちろんドキュメンタリーではなく劇映画なので、出来事の細部を少しばかり改変してドラマタイズしてはいるものの、根幹部分は実際にフリッツ家の兄弟レスラーたちに起きたことなのだ。

予備知識少なめで観て驚いてほしいので、筋にはあまり触れたくない。次男ケビン役ザック・エフロンのビルドアップされた体には目を疑い、特殊メイクのボディスーツを着ているのかと一瞬思ったほど。過去作の役で多かったスマートなイケメン好青年のイメージを覚えている人なら、エフロンの肉体改造も驚愕ポイントのひとつだろう。

家父長制や父権主義について。日本では昭和の一時期より前なら当たり前のようにあったものだが、個人の尊重や平等の意識が比較的強いイメージがある米国においても、プロスポーツ一家という事情もあってか父親フリッツと息子たちのような特殊な関係があり、それが悲劇の要因になったことにも深く考えさせられた。

“彼岸”を思わせる想像のシーンがある。それが優しくて美しくて、やるせない気持ちになった。

高森 郁哉