「いろいろと穴だらけで見ているだけでイライラする…」映画 ふしぎ駄菓子屋 銭天堂 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0いろいろと穴だらけで見ているだけでイライラする…

2024年12月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今年439本目(合計1,530本目/今月(2024年12月度)18本目)。
※ (前期)今年237本目(合計1,329本目/今月(2024年6月度)37本目)。

 ※ 「30歳まで童貞~」とセットの視聴になりますが、アニメ作品に関しては憲法論的な解釈がない限り基本的にはレビューは飛ばす扱いです。

 願いが叶うが副作用もある「不思議な駄菓子屋」と、その駄菓子屋のライバル店(さらに強力な「商品」を販売している)、あるいは色々と「困った人たち」がその駄菓子屋さんに頼って色々懲らしめられるお話、といったらよいのかな(原作児童小説があるようなので、あまりのネタバレは著作権的によろしくない)。

 途中から見ていて何がどうなっているのか…(後述)といったところで、一方で映画の述べるところの趣旨は明確でしょうが(何であっても安易に人や物に頼ってはいけない、というお話)、そもそも論で現在の日本で古き時代の駄菓子屋さんがある地方は少なくなっているので(インバウンド需要で、東京にせよ大阪府にせよ、外国人向けの「最近作った、あたかも昔からある駄菓子屋」というのもあってさらにヘンテコですが…)、このあたり、原作があることは明示されているものの、実際の当事者の方が駄菓子屋を正しくイメージできるかなといったところです。

 ストーリー展開については詳しく書いている方もいらっしゃるのでこちらは省略して、気になった点を個々書いておきます。ただ、かなりマニアックなお話になります。

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 (減点0.2/最初の主人公の小学4年生の子の理科のテストの星座のお話)

 中学校以降では概ね中間期末試験がありますが、小学校の場合、理解度を試すための授業前/後の5分間テストくらいの扱いが多いです。

 そのうえで、星座は小学4年生で学習するところ、映画内に出てくる「カシオペヤ座」はその通り正しいものの、これを筆記させる問題は悪問です(教科書検定は必ず「カシオペヤ座」でないと通らないが、サブノートや市販の問題集・塾教材等まで検定は及ばないため、表記ゆれ範囲の「カシオペ"ア"座」表記も広く見られ、中学入試もどちらでも正解にしていることが普通。逆に一方しか正解にしていない場合、指摘すれば救済されることが普通)。

 この事情があるので、「カシオペヤ座」それ自体の表記を問うのは実に悪問であり(特に「ヤ」と「ア」の聞き取りは難しい)、このミニテストもそもそも何なんだというところです(天文星座の分野に関してあらぬ誤解を生むことになる)。

 (減点1.0/民法402条に関する考察が極めて雑にすぎる)

 この「駄菓子屋さん」では特定の通貨での支払いを要求されることがありますが、それは契約自由の原則(民法521条)があるほか、以下の402条も根拠になり「えます」。

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 402条(金銭債権)

 (1) 債権の目的物が金銭であるときは、債務者は、その選択に従い、各種の通貨で弁済をすることができる。ただし、特定の種類の通貨の給付を債権の目的としたときは、この限りでない。

  ※ 2項3項引用省略。
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 しかし、この映画の展開では「特定の種類の通貨を給付の債権の目的としていない」ためその条件も満たさず、契約自由の自由はそのことが示されている(例えば、どこの店であっても「電子マネーのみです」などと書いてあることが前提)のが前提で、それもない本作品では「特定の通貨での支払いを強制する」根拠が何もなく解釈がヘンテコです。なぜなら、お札(紙幣)や小銭(通貨)には強制通用力が認められるからです(後述)。

 もっとも、この話は極めてマニアックだし(法律職の最上級職という司法試験でさえ、この条文を実際に使うような機会はないし(電子マネーの導入が議論された時期に委員が持ち出したくらいで、実際に本条文を議論するようなことは学問上の議論としてはあっても、実際上のトラブルとして存在しがたい)、そこまで指摘するんかというのはありますが、法律系資格持ちの解釈をごまかすこともできません。

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 (減点なし/参考/「強制通用力」とは何か)

 民法402条の話をする前に、紙幣(お札=日本銀行券)を扱う法律は「日本銀行法」、小銭を扱う法律は「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」と異なるのですが、

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  (日本銀行法)
 46条の2 前項の規定により日本銀行が発行する銀行券(以下「日本銀行券」という。)は、法貨として無制限に通用する。

  (通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律)

 第7条 貨幣は、額面価格の二十倍までを限り、法貨として通用する。
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 …とあります。「無制限に通用する」ため、偽札等でない限り相手側は受け取りを拒否できません(受け取りを拒否すると受領遅滞の論点が生じる)。

 この「日本銀行券に法的な根拠を与え、それを必ず使うことを強制し、かつ、その価値等に法的な根拠を与える」効力を「強制通用力」といいます。ここまではさくっといきます。

 (減点なし/参考/民法402条は強行規定?~その1)

 実は、契約自由の原則(民法521条)と402条ほかにおいて、402条がそもそも強行規定かという学問上の解釈論が根強く存在します。この点はちゃんと触れるべきではなかったのかというところです。

 402条がまず実務上問題になるのは、主に「電子マネーのみです」という場合にそれらを扱えない高齢者や重度身障者等をどう扱うかという実際上の問題や、402条の「通貨」に何が含まれるのかの解釈上の争い(お札、コインが含まれることは当然争いはないとして、小切手やクレジット決済、「何とかペイの類」やさらにいわゆる「暗号通貨」等、何が含まれるか)という議論があり、この解釈は日本のコロナ事情を経た2020年以降実際にいわゆるキャッシュレス決済が当たり前となった今日において日を浴びた「マニアックな条文」であるところです。

 民法402条や、さらに契約自由の原則(521条)を根拠に、これを任意規定(当事者の取り決めで排除できる)とする解釈もありますが、一方で国家にとって「お金」というのは国の存続に次いで大切なもので、それらを定める個別法が「当然に」優先されるのかという「どちらを上に扱うか」の解釈論を踏まえ「強行規定では?」の解釈もあります。

 ※ 帝国憲法のころの旧民法でもこのような規定は存在しましたが、その当時はそれこそ倉庫をあさったら江戸時代中期~末期の古銭が出てきたというのが当たり前に存在していた時期であり、そうした古い風習をなくすためにこれら規定が設けられた趣旨を考えて、当時は強行規定と解釈する向きもある一方(今はまぁ全国的に見て年に1回あるかないかレベル)、一方で国家が全ての取引も監視できません。

 ※ この具体例として「2000円札だけお断り」の店が一時期ありました(ATMが取り扱えないことが多かった為)。ただ、余りにの不人気にそうそうに新札は刷られないようになり現在残るそれも、2000円札の趣旨的に描かれている沖縄県では絶大な人気があるため、事実上、沖縄県に集中的に集めて、今でも(2024年)県内でのみ使われています。

 (減点なし/参考/民法402条は強行規定?~その2)

 「その1」で書いたような内容、つまり、通貨の性質や契約自由の原則ほかは、民法の債権総則で書かれている内容で、それは明らかに売買等、個人の契約を前提としたお金のやり取りを前提とした条文です。契約自由の原則も「契約を結ぶ意思表示」があることが前提だからです。

 一方で、「法定債権」といって、条件を満たすと勝手に発生する債権もあります。事務管理、不当利得、不法行為の3点セットです。例えば「車であなたを押し倒すこと」を「事前の」契約とすることはありません。

 つまりそれらは「契約自由の原則の例外」になるところ、402条を素直に読めば、車でひいてしまった等の加害者が「特定の種類の通貨」が約定されていないことをもって、「何とかペイで支払う」ということを被害者側が阻止できない(仮に支払われても被害者側の役に立たない)、という実際上の問題があります(=任意規定だと解釈すると、法定債権であるという場合に参照される402条で解釈が破綻する)。

 実際、法律論を厳密に突き詰めると加害者がどうしても「何とかペイで支払う」というとそれを止めることはできないので(契約自由の原則の例外にあたるケースのため)、実際に「何とかペイ」にせよ極端な金額の本人振りだし小切手をどうするのかという問題は残ったままで、この部分は「今後整理する必要はあろう」のままで「終わってしまった議論」です(コロナ事情が、政府の封じ込めが「功を奏して」早めに終結してしまったことも、この議論が中途半端になった理由の一つ)。

 ※ このような状況で加害者側が「何とかペイで支払いたい」が実際に「ありうるトラブル」として問題視された背景として、そうした「何とかペイ」の利用率によって利率やポイントが付く等の各社の取り組みが存在するからです。

 こうした問題があるので、この映画内で突如出てくる「昭和/平成の○年の通貨で払って」関係は色々と問題があるので(402条、521条の条件を満たさない一方、強制通用力を認める立場であっても、なぜそれに限定されなけばならないのかが(買主=お客に)不明。実はこの点についてはストーリー上わかるのだが…)、こうした部分については映画なりの解釈がいるんじゃないかといったところです。

 ただ、この議論も実際に日常生活でされることはレアであり(自販機が新札を受け入れないのに402条違反だとか言っても機械相手に何ら仕方がないし、コンビニ等で設置が急速に進んだ接触回避型の現金投入機がそれら新札を受け入れていないといわれても、実際には外国人雇用が当たり前になったコンビニで402条がどうだの言われても誰も理解できない)、まぁレア条文ではあるんですが、一歩間違うと解釈の議論の「火薬庫」であり、その部分についての解釈が非常に甘かったのはどうか…といったところです。

yukispica