「こんなリクハラ会社は嫌だ」六人の嘘つきな大学生 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
こんなリクハラ会社は嫌だ
劇場で予告編を散々観た上での本編鑑賞となりました。ゴジラが憑依するほどの大役を務めた浜辺美波が、就活する大学生役で登場したので、主役とは言え東宝も軽い役をさせるなあと言うのが観る前の思いでしたが、果たして内容はどうだったのでしょうか。
”スピラリンクス”という新興のイケイケ会社の最終選考に残った6人の就活生のお話。初めは会社側から6人全員を採用する可能性もあると言われ、最終選考までの期間に互いに交流を深めて行くところから物語はスタート。ところが最終選考まであと1週間に迫った日に、突然会社から1人のみの採用に変更になったとの通知が会社から来て、それまで良好だった6人の関係は崩れました。しかも最終選考は、6人でディスカッションし、自分以外の誰かを推薦するという、これまた奇妙奇天烈なお題が出されてディスカッションは始まりましたが、面接会場には各人の過去の悪行が書かれた告発文が置かれていて、6人の関係性は決定的にぶち壊れ、疑心暗鬼に陥って互いを責め合うことになりました。
言ってみれば面接版の”バトルロワイアル”な訳ですが、正直こんな選考方法って、リクルートハラスメントだよなあと感じたところ。最終的に告発文は6人のうちの1人が仕掛けたものであることが判明し、会社側が関与したのは、ディスカッションで自分以外を推薦せよというお題を出したまでだったことが分かりました。ではあるものの、全員採用もあり得ることを伝えていながら、途中で1人のみに絞ると伝えるという重大な方針変更するような会社には、少なくとも私は嫌悪感こそ感じません。ところがこの6人には、私が持った類いの嫌悪感はなく、むしろ絶対に入社したいという思いを持ち続けた模様。こんな人間感情を無視した選考をする会社に入社したいというのが当世の若者気質だと言われればそれまでだけれども、殆どストックホルム症候群に陥りやすい人を採用しているだけなんじゃないかとも思われ、それが現実だとすればちょっとゾッとしました。
また現実問題として、業績が右肩上がりでイケイケのスピラリンクスが、1万人もの新卒応募者の中から1人しか採用しないことも、あまりリアリティがないなと感じたところでした。
以上、物語の大前提の部分に受け入れがたいところが多く、それ故に肝心のミステリーの部分があまり響きませんでした。無理矢理大前提に目を瞑れば、告発文を置いた”犯人”捜しの下りは攻守入れ替わりの場面が結構あって飽きが来ず、それなりに面白かったです。そういう意味では大前提が受け入れられさえすれば、もしくはもう少し受け入れやすい大前提であれば、本作の評価はかなり上がったように思われました。
一方、こんな奇妙奇天烈な選考方法を考案した人事部長の動機とか、浜辺美波扮する嶌衣織が入社して、パワハラまがいの態度で後輩を”指導”する場面が挿入されたところなど、最終的に全く回収されない話がいくつか登場し、この辺は必要だったのかしらと疑問に感じられました。
あと、佐野勇斗扮する九賀蒼太が、今一部で話題となっている慶應SFC出身という設定で、なんかSFCが変なアイコンになってるなあと。私が学生の頃は、(本来当たり前の話なんだけど)大学生なのにちゃんと勉強している学部ってことで、かつ実際優秀な人を輩出していて、かなり清新な感じだったんだけど、いつからこういう役割を背負うことになったのかという思いが沸きあがって来たところでした。
そんな訳で、本作の評価は★3.2とします。
原作では応募者は五千人でしたし、選考方法の変更にも一応「震災の影響」が添えられていたのですが…
人事部長や後輩についてはこれも原作では意味があるのですが、仰る通り映画では必要なかったかと思います。