「映画愛に溢れた時代劇へのラブレター」侍タイムスリッパー tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
映画愛に溢れた時代劇へのラブレター
山口馬木也が、役にピタリとハマっている。
バイプレイヤーとして、その顔と名前は認知していたが、チョンマゲ姿の時はもちろん、ザンギリ頭になっても「会津の侍」にしか見えないところなどは、まさに役になり切ったような名演で、これほど良い俳優だとは思わなかった。
その他の出演者も、どこかで見たことのあるような、ないような役者ばかりだったが、誰もが皆、「良い味」を出している。
確かに、映画としての拙さや物足りなさを感じるところが無い訳ではない。
例えば、主人公が現代にタイムスリップして、時代劇の撮影現場に居合わせるくだりとか、撮影現場でスタッフが斬られ役のエキストラを探していて、主人公を見い出す場面では、もう少し上手い見せ方ができたのではないかと思うし、イチゴのショートケーキだけでなく、もっとカルチャーギャップのドタバタがあってもよかったのではないかとも思う。
だが、この映画から感じ取ることができる映画作りに対する熱い思いや、廃れゆく時代劇に対する惜別の念は、そうした拙さを補って余りあるほど強く胸に突き刺さってくる。
物語としても、冒頭で一緒に雷に打たれた侍はどうなったのだろうと思っていると、ちゃんと「なるほどね」という展開になるし、彼の出現によって、幕末の幕府側の侍たちと、時代劇を作る映画人たちの「失われゆくものへの想い」がシンクロしていく作り方も、よく出来ていると思う。
特に、ラストの、正真正銘の「真剣勝負」は、2人の武士の決着の付け方として説得力があるし、「はたして、どのような結末になるのだろう?」という、手に汗握るような緊迫感が味わえて、非常に見応えがあった。
それと同時に、「カメラを止めるな!」みたいな雰囲気になったり、「トップガン マーヴェリック」と同じ台詞が出てきたりと、他の作品へのオマージュみたいなものも感じられて、思わずニヤリとしてしまった。
二段構えの結末には、「やはり、そうなるよね」と納得できるし、エンディングで映し出されるオマケ映像も心憎く、とても軽い足取りで劇場を後にすることができた。