劇場公開日 2024年9月20日

「この映画はCODAの話と聞き、少し手話の事を調べてから観に行きまし...」ぼくが生きてる、ふたつの世界 wisefatさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0この映画はCODAの話と聞き、少し手話の事を調べてから観に行きまし...

2024年9月19日
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鑑賞方法:映画館

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この映画はCODAの話と聞き、少し手話の事を調べてから観に行きました。僕は手話って聴者が話す言語、例えば日本語をそのまま手の動きに変換したものだと思っていたのですが、そうではなく独自の文法をもった独立した言語なんですね。そして、その表現は手の形状にとどまらず、顔の表情、手の動きの大きさ、位置(顔から近い遠いでニュアンスが違ったりする)テンポなどを総動員するもののよう。
資料を読むと吉沢亮は聾者も驚くほどレベルの高い手話表現をしているそうですが、素人目にもその感じは分かりました。そっけなく話す時の手話、気持ちがたかぶって日本混じりに話す手話。両親から教えられた手話だからCODA独特のものでもあることも表現されているようです。
また聾者は、手話よりも聴者の口を読み、発声を覚えて声を出すことが重要とされていた時代もあって、主人公大の母はその世代にかかっている事、手話にも方言があるといった事もさりげなく語られています。
でも、実はこういった僕が知らなかった聾者の"世界"は物語の中でさりげなく示されるだけで、この映画が語っているのは、普通のそんなにいけてない男の子のとても普遍的な成長物語です。無邪気な子供時代から親をうとましく思う思春期、何者でもない自分との葛藤の時代、そして親のありがたさに素直に気づける瞬間。それぞれの時代のリアルな背景にちりばめられた"あるある"が、とても映画的な豊かさの中で進行します。でんでん、烏丸せつこ、原扶貴子、山本浩二から滲み出まくる人間というものの可笑しさ愛おしさ。たまりません。結局僕ら人間は、こういうふうに不器用にぶつかりあって生きていくしかないんだけど、そこにある可笑しみ、喜びこそが何よりも大切なんだと思わせてくれます。
あのトンネルはもちろんイ・チャンドンへのオマージュでしょう。
呉美保、剛腕です。

wisefat