「命を救う親子」ディア・ファミリー えさんの映画レビュー(感想・評価)
命を救う親子
元の事実、ストーリーを知らなかったので、冒頭いきなり勝利者インタビューのような形で始まり、「あ、成功したんだ。」と、初っ端からネタバレをくらった気分になった。が、映画を観終えるとこの構成が正解だったようにも思える。
当初娘の心臓病の治療の為、各地を飛び回る場面はスピード感と若干のコメディ感もあって、いやそういう題材じゃないよね?という戸惑いがあった。
その娘を思う父のある種狂気じみた しつこさと行動力は凄まじく、ルールや常識などお構いなしで突っ走り、観客として大いに応援しがいがあった。大泉洋が演じるキャラクターとして人間味があって非常にハマっていた。
自分で人工心臓を作るということで、研究生のチームを入れてもらうが、微妙なモチベーションのズレ。それに対する妻(菅野美穂)の「彼らは熱心。でもタイムリミットが無い。」というセリフはかなり重い言葉だと感じた。
私財も時間も会社経営でさえも犠牲にして取り掛かる主人公と、健気に一生懸命に生きる佳美(福本莉子)や家族達。途中からは余計なツッコミをする余地もなく、ただただ応援していた。
当初は他の患者など眼中になかった(当たり前)主人公に佳美は病室で仲良くなった子を救ってくれと懇願する。自分の病気を治そうと頑張っているパパならはきっと他の子も救ってくれるんだと信じていたんだろう。
日記に「死にたくない」と書き連ねていた佳美は、絶望的な状況の父親にもう頑張らなくていいよ。とその肩にのしかかった重圧を取り除く。
そして、そこに親子の新たな夢を託すのであった。
そこからまた始まる主人公の狂気の試行錯誤。途中、素材の湿気を抜くかなにかでカバーの中で這いつくばるコメディーチックな箇所があったが、一生懸命な人物の姿というのはどんな状態であろうとかっこよく見えるものだなと思った。
佳美が倒れ車で病院へ急行するなかで「どうしてそんなに前向きになれるんですか?」という問いに
「俺が諦めたら、そこで終わりだろう。」と答えた主人公。妻と3人娘の家族。絶対親父が折れてはならないという決意が素晴らしい。
しかも実はそれを妻と長女(川栄)が支えているのも素晴らしい家族の形だと思った。(寿美(新井 三女)は佳美を支えていた。)
少なくとも4回くらいは涙しかけた。感動映画というだけでなく、随所にある素晴らしいセリフや心を正す、考えさせられる部分もあり、とても良い映画だった。
気になった点
若干セリフ口調が気になるのと、相手のセリフを待っている感が伝わってくるのが気になった。
キャラクターが記号的で特に石黒(光石 教授)が分かりやすく悪役として描かれている。医療業界の闇があるのは理解するが人の命が掛かっているのも事実であり、理想としてはそれぞれの立場での葛藤というのも描いて欲しいなと思った。
結局、佳美を亡くしたこととインタビュアー(有村架純)がそのバルーンで助かった命だというのが観客に提示され、切なさと感動が溢れる。そして、その後表彰されるところで陽子(菅野美穂)が「それで、次はどうする?」と最後に投げかける。
おそらくそこでニヤリと一服の清涼感を出して終わるという感じなのだが、正直観ている側はそんな状態ではないので機能していないように思えた。
あと「これだけ頑張ったお父さんにまだ何かやらせるのか??」と思った。(原作にあるなら申し訳ないが。)
兎にも角にも良い映画なのは間違いない。出演者の演技も当然みんな素晴らしかった。娘陣が子役も含め特に素晴らしいと思った。
あとモンゴルの赤ちゃんが可愛すぎてビックリした。