「知略で戦う能力バトルなら面白かった」マダム・ウェブ SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
知略で戦う能力バトルなら面白かった
評判があまり良くないのは知っていたけど、マーベルのヒーローものの新しい挑戦的作品なのではないかという予感がして観ることにした。でも、「マーベル初の本格ミステリー・サスペンス」は、嘘やん!ずっこいなー!と思った。
中盤までは丁寧な展開でとても面白かった。
ハトの命が助かることで、主人公の行動で未来が変えられる、と気づくくだりは見事。
主人公はコントロールできない未来予知しかもってなくて、敵はヒーロー的な能力もっているって、知略だけで相手を倒すっていう最高に燃える能力バトルの設定じゃん!とわくわくした。
でも、丁寧すぎてテンポが悪いようにも思ったし、どうすればいいか分かってるのにさっさと最善の行動をとらない主人公や、三人娘たちの愚かさのせいで窮地に陥るのはイライラさせられる。
あと、細かいところで脚本が荒い。
・たき火を消さないのはどうなの? 誰も火事を心配しないの?
・主人公が留守の間、ネコの世話どうしてるの?
・敵が主人公たちを捜索するとき、主人公の同僚の家なんてまっさきに調べるでしょ? 頭悪すぎない?
・敵の秘書みたいのが3分おきに監視カメラ見てるって言ってたけど、1人でそれやるって無理あるよね? いつ寝てるの?
細かいって言われそうだけど、こういうとこ大事だと思う。
終盤からは期待させられた知略勝負の能力バトルの展開にはあまりならなくてがっくしきた。
主人公が未来視の中で、夜のダイナーで敵から重要な情報を得るところは、「おおっ!」と興奮した。これって、主人公が「行動しよう」と思っただけで、敵に知られずに一方的に情報収集できるってことじゃん、この能力を利用していくことになるのか!と、ここからの知知略展開を期待したけど、そんなことはなかった…。
能力バトルの定石って、だいたい以下の感じだと思う。
①能力を扱いきれなくて翻弄される
②能力のルールがだんだん解明される(もしくは真の能力に覚醒する)
③能力を使って敵を圧倒する
④敵が能力の欠点を見抜き、危機に陥る
⑤危機一髪でどんでん返し
この映画の場合、①②までは定石どおりだけど、③④⑤が曖昧になってて惜しい。
ペルーに行って主人公が覚醒したあと、その覚醒の内容がなんなのか、あまり明確に描かれていない。でもたぶん、「あらゆる未来の可能性を見ることができて、最善の行動を選びとることができる」ということだと思う。
これはものすごいことで、一言でいえば「確率操作」ができるということだ。ゲームでいうTASが現実でできるようなもの。
これを分かりやすく描くためには、たとえば、偶然でしか起こりえないようなことで敵を攻撃すればいい。ジュースの缶を道路に投げ捨てて、それがピタゴラスイッチ的に連鎖して最終的に敵を攻撃するとか。
④と⑤も実はこの映画では描かれているけど、それがあまり明確に表現されていない。
「確率操作」の欠点は、二者択一の状況では使えない、ということだ。Aを助ければBが死ぬ、Bを助ければAが死ぬ、という選択しか存在しない場合は、どちらも助けることはできない。将棋で言う、「詰み」の状況だ。いちおうこの映画でも似た状況になっている。
で、⑤のどんでん返しは、主人公の二度目の覚醒だ。映画で描かれているように、本来1つしか選べないはずの未来を同時に選ぶことができる、というのが究極の未来視の能力だ、というわけ(全然違う系統の能力なのかもしれないが…)。
この流れを分かりやすく示せれば、同じ展開でももっと面白く感じただろうな、と思う。
敵を倒すところもいまいち。主人公は後ずさる行動をとっているだけのように見えてしまう。まあ、看板が落ちてくるところに敵を誘導したってことなんだろうけど、あまりに地味すぎないか…。ブラフとか使って明確に敵の裏をつくようなことをして敵の行動を変えれば、もっと主人公が倒した感が出ると思うのだが…。
主人公が川から引き揚げられたあと、三人娘が胸骨圧迫で主人公を助けたシーンは良かった。伏線回収! でも、盲目になって身体に障害残ったのは後付け感がすごい。たぶん、原作のマダムウェブがそういう設定なんだろうなあ、って感じさせる。
どうでもいいが、主人公の同僚(ベン)と、敵と、ペルーにいた味方が全員白人男性でヒゲなのはどうなの? 全員似てるから、「あっ! ペルーにまで敵が追ってきたんだ!」とか混乱した。