Hereのレビュー・感想・評価
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【スープ作りの上手い若き建設労働者と、若き女性植物苔学者との交流を、過剰な演出を廃し淡々と描いた作品。バス・ドゥヴォス監督の作品は実に不思議で魅力ある雰囲気を纏っているのである。】
ー 「ゴースト・トロピック」を鑑賞した際にも思ったのだが、バス・ドゥヴォス監督の作品は、虚飾を極力排し、大都会で生きる人たちの日常の姿を淡々と傍観するかの如く描くのだなと、今作を観ても思ったものである。
2024.4.30追記 尚、私は面白く鑑賞したが、起承転結のある物語を期待すると、”何だ、この作品?となるので、敢えて追記します。寝不足で鑑賞するのも止めた方が宜しいかと思います。-
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・スープ作りの上手い若き建設労働者の青年は、ヴァカンスで故郷に戻る準備をしている。故に冷蔵庫の残り物でスープを作り、仕事仲間に振舞う。
ー で、そこから何かあると思って観ているが、大きな展開はない。-
・若き女性植物苔学者は、森で苔を採取中に以前叔母の経営する中華料理店で会った青年と出会い、彼女は青年に苔の素晴らしさを語る。
ここで、”女性の中国語のナレーションが入り、”私はここに居て、私はそこにいる。”という言葉が告げられる。
そして、若き女性植物苔学者は顕微鏡で苔を観て(観客にもその美しい緑を基調にした映像が供される。)、”綺麗ね。”と呟くのである。
<では、二人の間に何かが起きるかと言うと何も起きない。と言うか二人とも相手の名も知らないのである。
通常の映画であれば破綻している所であろうが、この映画は優しいアコースティックギターの効果もあり、静謐さを保っている。
バス・ドゥヴォス監督の作品は実に不思議で魅力ある雰囲気を纏っているのである。>
ベルギーのブリュッセルに暮らすシュテファン(シュテファン・ゴタ)。...
ベルギーのブリュッセルに暮らすシュテファン(シュテファン・ゴタ)。
建設現場で働いているが、夏のバカンス期となり、工事は一ヶ月ほどストップする。
故郷のルーマニアに帰国するにあたり、アパートは引き払う。
冷蔵庫の中も空にする。
そのために残り野菜でスープをつくり、姉や友人たちに配って回ることにした。
ある雨の日、中華料理屋で中国人女性のシュシュ(リヨ・ゴン)と出逢う。
その日は二言三言交わしただけだったが、修理に出していた自動車を取りに行く途中の森で、再び彼女と出逢った。
シュシュは苔の研究者で、森中の苔の種類を調べている最中だった。
その観察にシュテファンも付き合うことにした・・・
といった物語で、これでおしまいです。
特に何かがあるわけではない。
シンプルで静かな物語。
しかし、退屈はしない。
いや、ちょっと退屈だけれど、映画の流れに身をゆだねるとある種の心地よさがある。
「苔は人間が登場するはるか昔に現れたの。人類が滅びても苔は残るだろう」とシュシュがいう台詞。
ちょっとタルコフスキーの映画のようだ。
人類最後のラブストーリー。
いやいや、そうじゃないんだけれど、そんな感じがしないでもない。
それで、なんて名前なの?
はじめに言っておくと、エンドロールのスタイルが同じなのに疑問を持って公式サイトで確認するまで、「ゴースト・トロピック」の監督だとは気づかなかった。たしかに、同じブリュッセルが舞台だなとは思ったのだが。そして同じようにゆったりしたテンポの映画だなとも思ったのだが。
結局は、最後の最後に、鮮苔学者の彼女がオバサンとするやりとりが肝なんだろうな。誰も見向きもしない苔の名前をあれほど知っているのに、彼の名前は知らなかった。それは、聞こうともしなかった、興味もなかった、ということ。いや違うのよ、と弁解しても。まあ、そのことを、研究に没頭してしまったがゆえ、と微笑ましく思えるところが彼女の魅力のような気もするが。
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