「ここで根を張り、繋がり合いながら生きる」Here 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ここで根を張り、繋がり合いながら生きる
ベルギーのバス・ドゥヴォス監督がブリュッセルに生きる移民系の人々の暮らしを独自の視点で優しく紡いだユニークな一作。主人公はルーマニア出身の建設労働者シュテファンと、中国系の植物学者シュシュだ。シュテファンは建設現場がバカンスに入るので帰省を検討中。冷蔵庫の中身を腐らせまいと、あるもの全部使ってスープをこしらえ、周囲の人々へお裾分け。一方のシュシュは専門分野であるコケの研究に余念がない。全く見ず知らずの二人。しかしひょんな偶然で出会いを交わし、徐々に接点を重ねていく。ルーペで覗く一つ一つの植物細胞の成長や連動や増殖と、人々が織りなす人間関係やコミュニティの生成や発展といったものがナチュラルにオーバーラップする。そんな各々の生態としての面白さが本作にはある。それ以上の余計な説明はなく、あくまで透明感ある風景、自然、そして個々の日常が静かな映像のハーモニーを奏でる、深呼吸のように心地よい作品だ。
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