「【大家族、学校でも居場所の無い口数の少ない少女が一夏を、親戚夫妻と過ごすことで、自分の心を解放していく様を静的トーンで描き出した作品。ラスト、少女が農場を去る親戚夫婦を追い掛けるシーンは沁みます。】」コット、はじまりの夏 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【大家族、学校でも居場所の無い口数の少ない少女が一夏を、親戚夫妻と過ごすことで、自分の心を解放していく様を静的トーンで描き出した作品。ラスト、少女が農場を去る親戚夫婦を追い掛けるシーンは沁みます。】
■1981年の夏、アイルランドの郊外の町で暮らす9歳のコット(キャサリン・クリンチ)は出産を控えた母親の負担を軽くするため、父のダン(マイケル・パトリック)に連れられショーン(アンドリュー・ベネット)とアイリン(キャリー・クロウ)夫妻の家で暮らすことになる。
◆感想
・序盤から静的トーンで物語は進むが、コットに笑顔はない。家庭でも学校でも居場所がなく、父ダンからはツッケンドンに接せられ、そのせいか、夜尿症も・・。
ー コットを演じたキャサリン・クリンチの幼いながらも端正な笑顔無き表情が、切ない。-
・ショーンとアイリン夫妻の家に着き、特にアイリンは優しく彼女に接する。
夜尿をしたときにも、叱ることなく、優しく風呂に入れ足の指まで丁寧に洗ってくれ、丁寧に髪を梳いて貰ったり。
・ショーンもぶっきら棒ながら、言葉の裏に隠された優しさを示す。
ー 何気なく、コットの横にスコーンを置いて上げたり、郵便受けまでコットを走らせ郵便物を取って貰う。長い脚のコットは足も速くショーンは”凄いぞ!前より10秒も早くなった。”と褒めてあげるのである。少し誇らしげなコットの表情。
更に、コットのために新しい服を買いに町に連れて行くのである。ー
■その後、親戚の老人が亡くなった時に葬儀に参列した後に噂好きのオバサンとコットが帰る時に知った事実。
それは、ショーンとアイリンの息子が犬を追い掛けている時に、肥溜めに落ち亡くなっていた事。アイリンの髪が一晩で白髪になった事。
・夏休みの終わりが近づき、コットはいつもはアイリンと汲みに行く水汲み場に一人で行くが、バランスを崩し・・。アイリンがコットが居ない事に気付き、走って来てずぶ濡れのコットを抱きかかえる姿。
ー 彼女が、如何にコットを愛しているかが、良く分かるシーンである。-
■故に、風邪を引いてしまったコット。家に帰る日を少し遅らせて、看病するアイリン。だが、家に帰る日はやって来て・・。
家に着くと、母と生まれた幼子が居るが、父はいない。(普通は帰りを待っているだろう!)父は酒を呑んで戻って来て、コットに対しては相変わらずツッケンドンな態度。
そして、ショーンとアイリンが車で帰るシーン。
コットは郵便受けまで走った時のように、長い脚で二人を追い掛けて走り、気づいて車から降りて来たショーンに抱き付くのである。
助手席では、アイリンが涙を流している・・。
<今作は、大家族、学校でも居場所の無い口数の少なかった少女が一夏を、親戚夫妻と過ごすことで、自分の心を解放していく様を静的トーンで描き出した作品である。
彼女は、ショーンとアイリンと一夏を過ごした事で、成長した事が切ないラストシーンで鮮やかに記された作品でもある。>
<2024年3月2日 刈谷日劇にて鑑賞>