「鹿が死んでも目を閉じないのは、命が繋がっていく様を直視したいからなのかもしれない」WILL Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
鹿が死んでも目を閉じないのは、命が繋がっていく様を直視したいからなのかもしれない
2024.2.29 アップリンク京都
2024年の日本映画(140分、G)
北関東で猟師をしている俳優・東出昌大を追ったドキュメンタリー映画
監督&編集はエリザベス宮地
物語の舞台は北関東のとある村&東京
不倫スキャンダルから事務所解雇に至った頃に、北関東に移住をすることになった東出昌大の日常を追っていく
主に2021年11月から、22年9月ぐらいの約1年間の密着を元に構成されている
その期間は、ちょうど不倫スキャンダルで謝罪会見を終え、その後、舞台『悪魔と永遠(演出:川名幸宏)』での復帰、映画『福田村事件(監督:森達也)』の撮影時期となっている
また、報道されなかった女性猟師のマツハシとの関係、彼が移住することになった経緯などにスポットライトが当たっていく
映画は、狩猟シーンが頻繁に登場し、ガチで捕らえた動物を解体するシーンなどが登場する
なので、血がダメという人は直視できないシーンが多く、劇中で登場する写真家・石川竜一の『いのちのうちがわ』からの写真も引用されていく
内容としては、命に向き合うことを描きながら、彼がそこに安息を求めている理由などが描かれていく
かなり哲学的な内容になっていて、映像と上映時間の長さも踏まえて、相当な覚悟が要る反面、「すごいものを見たな」という感覚は拭えない
人類が肉を食べていることに向き合い、命の選別とその業を真正面から描き、そこに在る葛藤なども浮き彫りになっていく
劇中で印象的だったのは、小学生たちが解体シーンを見学するところで、先生たちは「小学生たちの意思を尊重して参加させている」ところだろう
そこで「かわいそう」と呟く子どもたちも真剣にその様子を眺め、そして「かわいそうだけど、肉は美味しい」という素直な言葉を残していく
動物から命をいただくことを真剣に捉え、無駄に捨てることがないように全てを享受する姿は、フードロスがどうのとモニターの向こうで鍔迫り合いをしていることを思えば、それらがいかに偽善的で軽薄なもので在るかがわかってしまうように思えた
個人的には、「概念としての地球にとっての癌細胞」が「現実的に思える」と紡がれる言葉が印象的で、これは劇中で登場する登山家・服部文祥の言葉でもある
他にも元猟師のフジナミという老人から学ぶ、「熊などが人間の世界に降りてくる理由」なども新鮮な情報で、いかに本質に向き合わない議論がメディアを覆い尽くしているのかがわかる
動物愛護団体が見たら発狂する内容だし、ファッション・ヴィーガンの人たちも卒倒すると思うが、このあたりのガチな議論をするベースとしては、新鮮かつ意味のある燃料投下のようにも思える
「森の中で死んで、そのまま動物や虫に食べられて朽ちていきたい」という東出の言葉は印象的で、命の循環の中にある一瞬を与えられていることの意味というものは大きいように感じた
いずれにせよ、普段はドキュメンタリーを見ないのだが、俳優がガチの狩猟で生きているということに興味が湧いて鑑賞した
映画の中で見る東出昌大、メディアで報道される東出昌大、そのどちらからもかけ離れた存在であるものの、その露出した部分の根幹にあるものは違わないように思える
音楽をMOROHAが担当し、その叫びも重なっていくのだが、現代社会に生き抜く上では避けて通れない問題を描いているのだな、と感じた