「この物語の流れと同じように、老いというものは静かにやってくるものなのかもしれません」瞳をとじて Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
この物語の流れと同じように、老いというものは静かにやってくるものなのかもしれません
2024.2.21 字幕 京都シネマ
2023年のスペイン映画(169分、G)
失踪した俳優探しに関わることになった映画監督を描くヒューマンドラマ
監督はビクトル・エリセ
脚本はビクトル・エリセ&ミシェル・ガスタンヒデ
原題は『Carrar los ojos』、英題は『Close Your Eyes』で、ともに「目を閉じて」という意味
物語の舞台は、スペインのある街
かつて映画監督として数々の作品を作り続けてきたミゲル(マノロ・ソロ)は、撮影中に俳優が失踪すると言う事件に遭遇した過去があった
それから30年が過ぎ、その事件は忘れ去られていた
ミゲル自身も田舎町に越して、自家農園を営みながら、細々とした生活を送っていた
ある日、ミゲルの元にテレビ局からオファーがあり、「未解決事件」という番組にて「失踪した俳優を追う」という特集が組まれる事になったという
その題材になったのが、ミゲルの映画で失踪したフリオ・アレナス(ホセ・コロナド)で、関係者たちのインタビューを交えながら、彼が今どうしているのかを訴えかける構成になっていた
番組プロデューサーのマルタ(エレナ・ミケル)はミゲルにオファーを掛け、同時にフリオの娘アナ(アナ・トレント)にも声をかけていた
ミゲルは渋々承諾するものの、アナは協力を拒んでいて、ミゲルは映画編集担当のマックス(マリオ・バルド)の力を借りながら、当時の情報を集めていくことになったのである
映画は、制作途上で頓挫した映画の一幕で始まり、フリオ演じるフランクという男性が、レヴィ氏(ホセ・マリア・ポウ)の依頼を受けて少女ジュディス(ヴェネシア・フランコ)を捜すという内容になっていた
ジュディスはレヴィ氏の生き別れの娘で、死が差し迫っているレヴィ氏のために、フランコが奔走するという感じに綴られていく
だが、映画はフランコ役のフリオの突然の失踪により中断し、依頼シーンと最後の再会のシーン以外には残っていない
後半の再会シーンでも、編集でフランコがそこにいるように見えているが、おそらくはあの場にはいないのだろうと思われる
物語としてはシンプルで、そこまで難しい話ではないものの、まさかの169分という長さに驚いてしまう
無駄なシーンはないものの、長回しによるシーンの蓄積が気づいたらこんな事になっていた、という印象になっている
ポスタービジュアルは少女のアップだが、劇中映画のラストにて、レヴィ氏が彼女のメイクを落とそうとするシーンも、直前の涙に見立てた扇子越しの視線と重ねるなどの細かなこだわりがある
ミゲルの愛犬カリの存在感も抜群で、テレビにご主人様が登場したらキョロキョロしちゃうなど、芸が細かいなあと思ってしまう
映画を観ているシーンでも、それぞれのキャラがフリオの様子を観ているのだが、誰もが同じことを思いつつ、過去の彼と自分たちが知る姿を重ねていたりする
過去も現在もどちらも魅力的で、そのどちらかに行けば良いというのではなく、この多面性こそが人間を構成する要素である、というメッセージがあるのだろう
エンドロールでは、二つの顔をもつヤヌス神の石像が登場し、これ見ようがしにずっとアップで映っていたりする
ちょっとしつこいかなあと思いながらも、老いに向かうことの意味を考えさせる時間なのかな、とも思えた
いずれにせよ、映画らしい映画という感じで、切り取れば額縁に飾れそうなシーンもたくさん登場していた
個人的には1.5倍速で頼みますわと思えるシーンもあったが、映画館でゆったりとくつろぐということを考えればOKなのかなと思う
『ミツバチのささやき』に心を奪われた世代向けという感じなのであまり刺さる部分はなかったが、いつもはそこまで混まないミニシアターがほぼ満席というのは驚いてしまった
意義ある失踪の先に記憶が封印された理由はわからないが、死に際を求めて彷徨った終着点があの施設だとするならば、思い出さないことは神様の配慮なのかもしれません