「どういう趣旨で見たらよいかは評価が割れそう。光の点滅もやや厳しい…。」アンブッシュ yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
どういう趣旨で見たらよいかは評価が割れそう。光の点滅もやや厳しい…。
今年2本目(合計1,094本目/今月(2024年1月度)2本目)。
一応、映画としては公式には「光の点滅」に関してのアナウンスはありませんが、映画の趣旨上、戦場での戦車どうし、あるいは兵士の撃ち合いのシーンが極端に多いので、ある程度光点滅に耐性がないと厳しいかなといったところです。
結局、すでに書かれている方もいますが、UAE軍(アラブ首長国連邦軍)がなぜイエメン内戦に関与したのかという部分が抜けているので(後述。なお、パンフレットなどといううものはない)、何がどうなっているのかわかりにくく、そのうえにセリフも少なく同じようなシーンが延々続くのが厳しいところです(低予算とまでは言わないにせよ同じようなシーンが出てくるので放映フィルムがぶっ壊れているのかとすら思えるくらい)。
そうすると、いわゆる「戦争もの」あるいは、言い方が悪いですが「ミリタリーおたく」程度でないと戦車がどうだの何だのといったことはわかりようがなく、映画の趣旨として「結果的に」こういった事情から、極論、ガルパンの実写版か?というような様相と化するのがヘンテコで、そこがどうかな…といったところです。
本来はこのイエメン内戦自体は、今のウクライナ侵攻や北朝鮮問題ほかであまり報道されていませんが、2015年からのこの内戦は当時は報道されていたわけであり(今は休戦状態ではあるが、散発的にトラブルは起きている)、この時期の詳しいことを思い出すのも難しいところで、一方、映画としてはこうした説明はほぼないので(「アラブ首長国連邦・フランス合作」とあるので、特にイスラム教域の国では常識扱いなのだろうと思われます)、これを日本で見ても趣旨は理解できるのかどうか…といったところです。
ただヒントはいくつか隠されているのもまぁ救いといえば救いです(これも後述)。
少なくとも「やや光の点滅が厳しい」ので、他の映画とセットにするのはおすすめはしないです(私も「ラ・メゾン」を見て帰る予定だったのに気分が悪くなって帰ってきた…。この作品も何かいろいろ物議をかもしているそうですが…)。
評価は以下の通りです。
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(減点0.5/イエメン内戦についての理解を相当求められてしまう)
映画内では明確に出ますが、イスラム教という語がまず登場します。しかし、例えばキリスト教にもカトリックとプロテスタントがあるように、イスラム教といっても一つではなく、いくつかの宗派があります。それが、高校世界史でも学習する「スンナ派とシーア派の対立」です。 (※映画内では「スンニ派」/詳細は高校世界史で必ず学習するのでここでは省略)。
この点、イエメンで臨時政府として成立した行政はスンナ派であり、これを支持するアラブ首長国連邦と、映画内で登場するフーシ派はシーア派の一つで、これを支持したのがイランです(シーア派。つまり、「スンナ派とシーア派の争い」であったと同時に、同じ宗教の派閥の違いによって発生した「宗教を根底とする国どうしの争い」で、イエメン内戦という扱いではあるものの、実質的にはアラブ首長国連邦とイランとの戦いで(ここに、いわゆる「イスラム国」が乗り込んだり、軍需のチャンスと見て北朝鮮が登場したりと大混乱と化した)、「宗教を根底とするいわゆる代理戦争」であり、「イエメン内戦での国内での争い」を超えたものがそこにあるわけです。
※ シーア派はイスラム教の「宗派」の中では1割程度ですが、その中でも国教と言えるほどにシーア派を支持する国の代表例がイラン(普及率90%)、イラク・バーレーン(同、60%程度)など、少数になります。
このような「代理戦争」は思い返せば朝鮮戦争もそれに当たり(こちらはイデオロギーの事項。資本主義vs共産主義)、こちらも休戦扱いになっているのとまさに同じです。
こういった知識がないと、「なぜ突然UAEが出てくるのか」の理解が難しく、後半エンディングロール直前に出てくるお葬式ほかもスンナ派に立った立場でのものですが(作品参照。ただ、高校世界史をみっちりやっていないとわからない)、このことも前提知識がないと「何の葬式でも同じ」(人が亡くなったら弔うのが当然、という当たり前の理解)になってしまい、ますますこの映画が「リアルでガルパンを見ているような状態になってしまう」という特殊な一面を持ってしまいます。
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