「練達の役者二人の演技の掛け合い」九十歳。何がめでたい KeithKHさんの映画レビュー(感想・評価)
練達の役者二人の演技の掛け合い
断筆宣言をした90歳の作家・佐藤愛子と、彼女に連載エッセイを書いてもらいたい窓際の中年編集者の攻防を描いたコメディ・ドラマです。
二人の年齢設定からして、その攻防は昭和レトロ感に満ちたやり取り交渉になり、懐古志向を漂わせて進行していきますが、展開は全て室内での会話で進みます。アクションも謎解きもなく、まるで舞台劇のような印象でした。
ただ主役の草笛光子の意固地な“静”、相手役の唐沢寿明の口八丁手八丁の“動”、練達の役者二人の演技の掛け合いは、仄々とした中に頑固者同士の生き生きした迫力があって、つい惹き込まれてしまいます。
草笛光子80歳、唐沢寿明60歳、それぞれの熟練の滋味が巧く沁み出していたと思います。
佐藤愛子氏の同名エッセイが原作ですが、その自然流の生き方とポリシー、変に人生哲学めいた大仰な構えでもない、ブレない確固たる人生への捉え方は印象的でした。価値観が急速に変容している現代においては、その確かな生き方が鮮やかにくっきりと浮かび上がってきます。激動の昭和をしなやかに生き抜いた強かさと狡猾さが透けて見えるようにも思います。
本作は、己の信念に従って生きることの美しさ、尊さ、清らかさ、高潔さを、面白おかしく訴えているのではないでしょうか。
観賞後、1979年に107歳で亡くなった文化勲章受章者の彫刻家・平櫛田中氏の晩年の言葉を思い出し、改めてその意味を咀嚼したしだいです。
曰く「60,70鼻たれ小僧、男盛りは100から100から」
曰く「いまやらねばいつできる わしがやらねば誰がやる」
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