「やっと公開された。3年待った。」サン・セバスチャンへ、ようこそ t2lawさんの映画レビュー(感想・評価)
やっと公開された。3年待った。
スペインのサン・セバスチャン国際映画祭を舞台に、妻の浮気を疑う売れない小説家がさまざまな妄想夢とともに、プチ恋愛をするライトコメディ。88歳になるウディ・アレン監督の、肩に力を入れず、映画のマーケットに阿るようなケレンを皆無とした、独特の枯れた演出芸で魅せきる逸品だ。特に、映画祭という祝祭空間に集う「映画で儲けることしか考えてない俗物ども」を冷笑しまくる。イケメンの新進監督の広報担当である妻が、その監督によろめいているのも達観しつつも、しかし偶然出会った美人の女医に心を惹かれていくという、アレン流の「恋愛は倫理より熱情」なテーマはきちんと提示している。アウォーレス・ショーン演じる主人公はアレンを投影しただろう、ハゲでチビでデブなユダヤ人というルッキング。それでも堂々と女医への恋心を示すのは立派。アレン監督が若い時代なら自らが演じたかった役柄だろう。特に早口で畳みかけるような台詞廻しの技は、ウォーレスでは再現できていなかった。
本作で目玉は、主人公が夢見る、妄想する過去のヨーロッパ映画の名作のシーンだ。「市民ケーン」「8 1/2」「突然炎のごとこ」「男と女」「勝手にしやがれ」「仮面/ペルソナ」「野いちご」「皆殺しの天使」「第七の封印」の有名な象徴シーンをモチーフに、突然モノクロスタンダード画角となって登場する。音楽さえもニーノ・ロータであったりフランシス・レイであったり。それが全てパロディとして爆笑ものだ。「第七の封印」に至ってはチェスをする死神が、主人公に長生きの秘訣を語って消えていく。古き良き20世紀中盤の、作家の想いが強烈に描かれていた名作へ夢を見て、その憧れで一杯になりつつも、現実は「興行収入の話題」しかしない映画祭のミーティングへ主人公は背を向けていく。もちろん、コマーシャルなハリウッド的なるアメリカ映画界に失望し続け決別し、遂にはニューヨークを根城に製作を続けたたウディ・アレンの生きざまが、この作品のテーマでもあるのだ。